Grim Saga Project

031 C10 生者と死者は何が違う

 
 
 
「ねえ、バルミー。お母さん…、松浪未久が私たちの前に現れたとき、堤さんってどうしてたっけ。」
 
「堤さんが、私たちを応接っぽい部屋に案内してくれたよね。で、お待ちください、って。その後ちょっとして未久さんが来た。」
 
「堤さん、私たちにお母さんを会わせないようにしてた可能性はないかな?お母さんが出て行ってからすぐに堤さん戻ってきたけど、本当は案内したんじゃなくて、止めようとしたけど止められなかった。」
 
「どうだろ。ありえるかも…。でもたしかに、未久さんが出て行ってからすぐに戻ってきた堤さんは割と不満気だったよね。」
 
「だとすると、どうしても会わせたくなかった松浪未久が私たちの前に姿を現してしまったことが、私たちも殺さなければいけなくなった理由にはなるかもしれない。」
 
「未久さんは何のために私たちに会いに来たんだろうね。アンノウンのことをお願い、って言ってたこともその他の話も嘘っぽくはなかった。むしろ素直な人が率直な気持ちのまま喋ってるような印象だったよ。」
 
「うん。そうだね。何かを隠してるようには見えなかった。そもそも亡くなったお母さんが生きているのと変わらない状態で存在していることが伝えられるだけで良かったのかもしれない。」
 
「未久さんが生きている…というか、それとほぼ変わらない状態で存在している、とわかるだけで堤さんにとって不都合なこと、か。現時点で考えられるとしたら、…やっぱりそれは特別な研究に関係しているんじゃないかな。全然根拠ないけど、内容じゃなくて経緯とか。」
 
「経緯、か。お母さんは天才だ、って昔お父さんは良く言ってたんだよね。実際には亡くなっているとしても、姿形も心もそのまま生きているに等しい状況だったら、特別な研究ってお母さんの、松浪未久の研究なんじゃない?」
 
「それ。そうじゃん、きっとそうだよ。未久さんは生きているのと何が違うんだろ。訳あってアンノウンと一緒にいることはできない、って言ってたからやっぱり普通に生きているのとは違う、何らか行動の制限とかがあるのかな。」
 
「だって、ホントに生きているのと変わらないんだったら私とももっと早く会えてたはずだし、研究所の人たちにだって、極端な話、実は生きてました、って言っちゃったっていい。研究も生前の続きをすればいいのに、それらが叶わないような理由があるんだ。」
 
「未久さんともう一度話したいね。」