030 C09 心の中は誰にもわからない
「なるほど。つまり私たちとジャガーが知った何かが、殺害計画に巻き込まれる原因になった可能性が高い。たしかにそうかもしれない。」
「うん。となると、一番可能性の高いとっておきがある。松浪未久。つまり、アンノウンのお母さんのこと。」
「え。松浪未久がどうしたの?」
「うん。私たちとジャガーの前に姿を現した。」
「え?だって、松浪未久はもう…。」
「そう。亡くなっている。それは事実だった。本人もそう言っていた。」
「え?えーっと…?」
「私の母、松浪未久は生前、グリムの器を入手していたんですって。そして死後、グリムの器は、なにがどうしてそうなったかはわからないけど、母の意識と姿を投影することができるようになった。」
「つまり亡くなっているのに、存在するに等しい状況、ってこと?」
「そういうことみたい。少なくとも私たちの前には現れて言葉も交わしている。堤さんは極秘事項だって言ってた。本人が望んだからやむを得なかった、って。」
「松浪未久氏とはどんな会話を?」
「私は、亡くなったと思っていた母と対話できたことでとても気が動転してしまっているし、私に会いに来てくれたって思いが強くてよくわからない。」
「うん。でも、アンノウン、もしかするとこうなった以上、そこにはそれ以上の何か別の意味があったのかもしれないよね。会話の内容自体は他愛もないものでした。アンノウンのことを私たちに頼むね、って。あとは水谷所長、アンノウンのお父様のことを、不器用なだけで悪い人ではない、って。」
「じゃあ、どうして松浪未久氏がそんな状態になっているのかとか、特別研究の内容とか、ほかに誰がその辺りの機密事項を知っているかとかは…。」
「ええ、なにもわからない。ごめんなさい。」
「いえ、亡くなったはずの人、しかもアンノウンにとってはお母さんが突然現れたのだから。となると、やはり松浪未久氏が特殊な状態で存在していること自体が知られてはいけなかった情報、ということなのかな…。」
「なぜ知られてはいけなかったんだろう?」
「死んだはずの人間が存在していること自体がスキャンダルになるから?それとも研究の内容に関係が?…あとは、今松浪未久氏と、そのグリムの器はどこにあるのか。」
「たしかに。」