Grim Saga Project

029 A10 考

 
 
 
言うまでもなく堤さんが特別研究室の発火に関与している。
部屋に案内しておきながら姿を消し、その後密室状態になったことから明らかだ。
水谷所長と、その息子未来氏は殺されかけていたのだと考えて良いと思う。
 
二人が自ら命を絶つことを望んだ可能性もあるにはあるが、深く眠っていたことはその可能性を否定している気がする。
不自然だからだ。
つまり、堤さんが、または堤さんと何者かが二人を狙った。
ここまでは確定事項として良い。
 
一方、現段階で何をどう考えてもわかりようがないのはその動機なので、そこは一旦無視する。
考えておけることはまだまだある。
 
例えば場所の意味。
あのやり方だと確実に特別な研究の成果は一部または全部破損する。
なので、当然特別研究室の破壊は計画の一環だったと見るのが妥当だろう。
密室を作りやすかったから、などの理由も考えられないことはないが、機材や成果を犠牲にする代償は大きいはずで、それ自体が狙いにあったと考えるのが自然だ。
 
つまり、特別な研究の機材や成果の破壊と、二人の殺害が同時に目論まれていた、ということ。
なんとなく動機を考えたくなるが、先ほどまでの思考からそれはやめる。
推測に過ぎない思考を深掘りし過ぎることは事実から乖離しやすくなるから。
 
知りたいのは特別研究の内容。
そしてそれを知っているのが何人であるか、とそれが誰であるか。
水谷親子と堤さん自身、あとは?
もし三人しかいなかったのであれば、特別研究の内容または成果を独占することが目的だった可能性があるが、やはりそこは動機に繋がるので思考の優先度を下げる。
 
この二人の殺害と研究の破壊計画をたまたま実施した当日に、ジャガー・バルミー・アンノウンが研究所を訪れてしまったのだろうか。
何か知られてはいけないことを三人が知ったから、合流した私たちも含めて一緒に始末しようという流れに変更されたのか。
 
しかし、詳しい経緯はわからないにせよ、計画を一日先延ばしにすれば良かったのに、と思う側面がある。
そうせずに決行に至るほど重要な何かを三人は知ってしまったと考えるのが筋だろうか。
 
この検討をしている一つの理由は、堤さんの居場所を考えているからだ。
今私たちがいるこの駐車場に避難してきているたくさんの研究員の中に、探せば紛れているだろうか。
そうでない場合、堤さんはどこにいるだろう。
また、すでに計画が成功したと考えていた場合、その成果の何らかを持って逃亡した可能性は考えられるだろうか。
 
結果として、他の研究員が堤さんを疑うことになるのであれば、逃亡はあまり賢い選択肢に思えない。
であるならば、もう一つの可能性は、まだ研究所の中にいる、ではないか。
まだ何かしようとしている。
または、結果を確認しようとしている。
一つの鍵は、ジャガーたちが何を知り得たのか、であるとも思い至った。