028 B10 ウルドサテス
凛の膝の上にいると気付いて急に恥ずかしくなった。
身を起こして凛に礼を言う。
すべて思い出した。
光を見て倒れたんだ、僕は。
研究所で爆発があった。
行かなきゃ。
再度透視、かなり距離があるが地下フロアに燃え盛る部屋と姉や仲間たちの姿を確認、部屋から出られなくなっているであろうことも理解した。
ただ行っても助けられない。
凛の炎で扉を溶かすのも困難だろう。
どうする?
†
「おっまたせー…、って、うっわ、あっつ!なにこれ、やばっ。ペア、ここにいる人全員逃してOK?」
「OK。速攻でお願い。」
「あいあいさー!」
†
特別研究室というのがこの部屋の名だとあとから聞いた。
二重のロックをどちらも破ることなく、一瞬で中にいた8名を次々と、外に連れ出した。
美愛が来てくれたのだ。
テレポートという類稀な能力を持つ彼女は、彼女なりに訓練を積んで、距離も回数もかなり伸ばせるようになっていて、僕たち二人の手をギュッと握るとそのまま部屋の前まで移動した。
あとはシュッシュッと、短距離テレポートを繰り返して一人ずつ二重ロックの外まで全員を避難させた。
ウチもさぁ、ただのんびり過ごしてるわけじゃないんだよねぇ、褒めて褒めて。
というのが、僕らの貴重な友人であり仲間でもある光井美愛の言い分であった。
姉の梨紗が、美愛を抱きしめたせいで、美愛は照れて黙ってしまった。
美愛が遅れて到着するのを知っていたのはラムだけだったようだ。
これが籠様の伝言その2。
美愛を必ず連れて行って、と言われていて手配済みだったのだ。
どうしても到着が遅れるため、途中で合流せずに先に水谷科学研究所に向かったらしい。
それでは残りの一つの伝言は?と確認する。
現地に行ったら、色んなことが見えてる新しい仲間がいるはずだから、その方を頼ってみて、なのだそうな。
ということで、とりあえずジャガーが水谷所長を、尚都がもう一人の研究者を背負って、美愛と五人で屋外へ。
美愛以外の四人で念のため先に病院に、尚都の車で移動してもらうことにした。
「さて、さっぱりわからない。姉さん、ペア、色々教えてもらいたい。」
「その前にやることがあるよ、瞬。」
「そ。あの火事は人為的に起こされたものだからね。」
「え?ペアさん、リサさん、それどういう…あ。」
「あ、ペアとリサでいいよ。コードネームにさん付けもおかしいし。ナスくんだけ特別だけど。で、バルミーも気付いたね。」
「はい。アンノウンは?」
「うん。脱出できて落ち着いたら合点が行ったわ。」
「ちょっとちょっとー。ウチなにもわかんないよー。」
「オレンジにはあとでちゃんと説明するから、もう少し待って。」
「うん、まあ、今の話聞いてりゃ途中参加でも大体わかるけどね。」
美愛ことオレンジ(ジャガーの同伴者二人の前ではコードネームを使ってることを察した)は、無制限に好きなものと一緒に瞬間移動ができるわけではないらしく、その特性については一時期だいぶ調べた。
結果として、密着度もそうだけどオレンジ自身との親和性というか、一体感みたいな気持ちの問題で一緒に移動できる対象が変わることがわかっている。
バルミーとアンノウン、と紹介された二人もテレポートの対象になったのはある程度の他人でも能力の対象にできるようになったのか、特殊な状況を利用して急に近しい相手である気持ちを作り上げたかどちらかだ。
水谷所長を抱えたジャガーと、若い研究者を抱えたナスくんを一度に屋外へ移動して連れ出した後、館内はセキュリティカードの問題で自由に動けないため、結局残りのメンバーである僕、アップル、ペア、リサ、バルミー、アンノウンを三人ずつ二回に分けて、連れ出してくれた。
特別研究室内が一番危なかったが、外にまでなんらかの害が及ぶのも時間の問題と思えたのも一因。
先ほどは閑散としていた駐車場に人がたくさんいた。
どうやら多くの研究者が外に避難していたようだ。