Grim Saga Project

027 A09 火中の窮鼠は何を思う

 
 
 
そろそろ限界だと思う。
なんだか息苦しく感じてきたのは、煙が回ってきたからというだけではないだろう。
あちこちで上がる火の手は、ほぼ密室状態だと思われるこの空間、特別研究室の酸素をどんどん消費しているはずだ。
 
体育館ぐらいの広さ、と言えば想像がつくだろうか。
なんらかの計測でもするのか、細々した機器やパソコン、デスクにチェアなどが置かれた小部屋が研究室の一方の側面に並んでぜんぶで四つあり、その一つに倒れている若い研究者を一人発見した。
入口以外に人が出入りできそうな場所はどこにもなかった。
換気扇はいくつかあったが、口についた網を外してどうのという形状でもない。
 
俺、ジャガー、バルミー、アンノウン、ペア、リサと倒れていた二人の研究者の計8名は入口付近に固まって屈み、換気扇の影響で煙が充満しにくいことでギリギリまで耐えようとしていた。
この入口を物理的に破壊するぐらいしか脱出の方法が思いつかないし、ここにいるメンバーの誰かに起死回生の能力があればもう使っているだろう。
 
シュンとリンが助けに来たところで、難しいと思われる。
リンの炎が物理的に破壊または融解を試みたとして、可能だろうか。
ここは地下なので外壁からの干渉も現実的ではないだろう。
一瞬、リサだけはどうにかできないか、と考えてふと女性陣の方に目を向けるとリサとペアがにこにこしている。
 
どういう神経だ?
万事休す、ではないのか。
 
 
 
「なあに?ナオト、…じゃなくてナスくん、か。」
 
「いや、これ結構崖っぷちなんじゃないかと思うんだけど、なんで二人は笑ってられるんだろって。」
 
「あ、そうだよね。ごめん。どうしようもないね。私たちには。」
 
「え?大丈夫なわけじゃないのか。」
 
「リサが笑ってたのは、こんな時なのに大丈夫な気がしちゃうんだよね、って私が言っちゃったからよ。」
 
「でもさ、そう言われるとなんとかなる気がするんだよね。そしたらなんかおかしくなっちゃって。」
 
「おいおい…。でも俺は安心したわ。これは大丈夫だな。」
 
「え?え?どういうことですか…?」
 
「父も兄も助けられる、ってことでしょうか…?」
 
「あー、お嬢さん方、すまない。ちょっと俺たちがズレてんだと思う。なんつーか、確証はないんだ。ペアが余裕あるっつーことは平気、というか。つーか、ん?父と兄…?」
 
「こっちの二人もだいぶ変わってるからそこら辺はごちゃごちゃ言わなくても多分伝わってる。ところでバルミー、アンタ一体どんな能力が使えるんだい?」
 
「ナーイショ。でもこういう場面では使いどころないなあ。」
 
「アンノウンは…?」
 
「私はマスタではないわ。バルミーだけよ。」
 
「さあて、そろそろ、そんなに悠長な感じでもないぜ。だいぶ煙が低い位置まで来てる。そろそろマジで…」
 
 
 
ジャガーが言い終わる直前で、突然目の前に人が現れた。