013 A04 渦中の栗は焼けているか
グリムの器の能力は驚異的だ。
にわかには信じがたい。
しかし俺がそれを迷いなく信じているのは、体感しているからという理由にほかならない。
その器が、悪魔に魂を売った、と表現したというのはどういうことだろう。
なんというかとても複雑で、やっぱりな、という気持ちと妙な高揚感、そして恐怖感。
これらが混ざり合っている。
あとからじわじわ沸いて出た恐怖の存在感がどんどん増し、自らの覚えた違和感が確信的になる。
多分符号したのだ。
不思議な違和感に対して、悪魔という非常識な表現が。
違和感の正体は未だ不明だが、そこに何かがあるという事実は少なくとも証明されたような気になってしまった。
志田樹が悪魔に魂を売った、と言われる何らかと水谷夕心には関係があるのか。
水谷科学研究所には相関性があるのか。
ジャガーが研究所に入ったことと繋がりはあるのか。
各繋がりにおいて、今のところ決定的な関連となる根拠は見当たらない。
だが、ここまで常識で測れない不思議が重なるならば、それらがすべて無関係ということは確率論的にもなかなかあり得ない印象ではある。
さて、まず取っ掛かりはこのジャガーの潜入事案がどう動くか、だと思う。
そもそもなぜジャガーは水谷科学研究所にいるのか。
何を知っていて危険視しているのか。
誰といるのか。
改めて、梨紗を連れてきて良かったものだろうか。
嘉陵寺の事件の時、まだ梨紗は病床に伏していた。
ここまでにいくつか関わった出来事は、いずれも非日常的で、かつとても危険なものであった。
自らに直接危害が及んだわけではないけれど、結果的に死傷者が出るし、それ以前にもうこのグリムの器が常識の枠外にある。
元々俺は非日常の刺激を求めていたわけでもなく、ただ梨紗が幸せならそれで良かった。
最初は自分が病を患った時に、自ら梨紗と決別することにしてまで、それを第一に考えたはずだ。
欲が出た。
俺が幸せにしたい。
しかし、あれから今に至るまで大元の目的にはブレはないが、事あるごとに梨紗の幸せはここにあるかと考えてしまう。
まーたなんか小難しいこと考えてるんでしょ、と梨紗に言われて、いや別に、と答える。
事実難しくはない。
簡単な再確認だ。
梨紗はすべてを見透かしたような笑顔で、こちらを見るからもう負けだなと思う。
とことんやってやる。
いかなる危険が迫っても打ち払う。
そのための力を得るためにも犠牲も厭わない。
一択、共に行くのだ。
それしかない。