012 B06 天使と悪魔の見分け方
「姉さんさ、もうちょっと経緯を詳しく聞かせて欲しいんだけど。」
「ジャガーのこと?」
「ううん、全部。最初から。そもそも何でこんなところにいるのさ。」
「あぁ、じゃあそれは俺から話そうか。どっちにしても、いつジャガーが出て来るかわかんないわけで、夜は長いかもしれないしな。」
「ラムも瞬も凛ちゃんもそれでいい?」
「はい。」
「もちろん。」
「うん。」
「事の発端はさ、ちょっと前に瞬たちの大学で起きた例の事件だよ。それそのものというわけではないかもしれないが。伝えてた通り、俺と梨紗は志田結樹の父親である志田樹をマークしてた。結局シロで、その調査結果を以て依頼もとっくに完了しちまってる。だがあまりにも納得がいかない。消化しきれない。」
「うん。」
「一応さ、当たり前だが調査は切り上げたんだ。食うための仕事だってしなきゃいけない。だが、ずっともやもやしてたのも事実。ちょうど梨紗にもさっき同じ話をしたところだけど、ふと思い立った。今日だった明確な理由はないんだ。」
「てことは、尚都は私情でカーチェイスまでして追っかけ回しちゃったってこと…?」
「もちろんNGだよ。だけど見なかったことにできなかった。カーチェイスかぁ、気ままなドライブデートだよ。」
「うん。それで?」
「着いたのがここってわけ。もちろん、当の志田樹氏はもういないよ。この近くのファミレスで人と会って話をしていたが、おそらく帰っただろう。それを見て、俺たちも一息ついたら帰ろうと思っていた。会話の内容はあまり聞き取れなかった。そこにジャガーから連絡が入ったんだ。で、志田樹の会談の相手を調べていたんだけど、それが偶然ジャガーの行く先、つまりここ、水谷科学研究所の所長、水谷夕心だった。」
「二つ質問。一つめ、どうして志田樹氏の会談相手が水谷夕心だってわかったの?二つめ、志田樹氏と水谷夕心の関係はわかったの?」
「おー、凛ちゃん、鋭いね。水谷科学研究所って、調べると業界的にも世界的にもそこそこ名が知れてるようではあるんだけど、じゃあそんなに水谷氏の顔が一般浸透してるかって言うともちろんそんなことはない。志田樹との会談の場を見てる場所が微妙な距離でさ、"研究所"ってワードが耳に入ったんだよね。だから、調べて見つけた。水谷科学研究所のサイトに辿り着いて、そこに乗ってた写真を見てこの人だねって。二つめの質問の答えについては、確証は持ててないけど、話してる雰囲気的に友人なんじゃないかと思う。」
「それでジャガーからの電話については?」
「うん。水谷科学研究所に行かなきゃならなくなったが、きな臭い。今から12時間後までに自分が連絡しなかったら警察に介入してもらうように手配してくれ、ってそれだけ。水谷科学研究所はちょうど俺たちが調べていて近くにいた。潜入の目的も何もわからないが、それじゃあ連絡じゃなくて、出て来るのを待ってみようか、って梨紗と相談した。」
「んー、一つ共有しとくべき話がある…、かも。ティア…、器から聞いた話なんだけど、"志田樹は悪魔に魂を打った"って。詳しいことはまだわからないけど、だから息子の結樹が器に守られることになったのもそこに何か理由がありそうなんだよね。あまりその経緯について深く追おうとはしていないんだけど。」
「瞬、そういえば最近あんまりティアと対話してないね。」
「まったくしてないわけではないんだけどね。凛と話をする時間を大事にしたいし。」
「お。なんだ、いきなりのろけ始めんのか。」
「いやいや、真面目な話だってば。」
「うわあ、瞬がこんなこと言うようになるなんて感動だわあ。」
「お姉ちゃん、やめてよ…。」
「ホントなんだもん。しょうがない。凛ちゃん、瞬をお願いね。つい最近までもっとずっと下向いてたんだから、瞬は。」