009 C03 いつか叶う思惑
横目でバルミーとアンノウンを見た。
もちろんオレ自身も、過去のこととはいえミライを知る一人。
あれがミライだと言われてガラス越しの男を注視したが、以前より髪が伸び、俯いた顔とそこから覗くなんとなく無精髭っぽい感じから彼であるという感覚を強く持てない。
それ以上にアンノウンが気になった。
目を見開き、ガラスの向こうを見つめている。
マジックミラーになっているのか、こちらが見えるのか見えないのかはわからないが、少なくとも部屋の中にいる人々は誰一人こちらを気に留めない。
アンノウンの頬を一筋液体が伝ったが、先ほどのような目に見える取り乱しはない。
強い女性だ。
つまり、彼女には本人であると映ったのだろうし、おそらくそれは真実なのだと直感する。
なんとなくここまで聞いた印象だと、アンノウンは通常の兄妹よりは兄に執着しているし、好意を強く持っている。
そんな妹が見間違えないだろう。
気は済みましたか、という声が聞こえて我に返る。
気が済めば良いって話じゃねぇよ、と思うが、アンノウンの返答を待つ。
実際、こちらの希望がすべて叶えられたわけでないとはいえ、最低限の目的を達することはできた、と評価できる。
ええ、気は済まないけれど、とアンノウンが答えた。
何も言わずに水谷所長は歩き出したが、堤が後を追わせないように遮る。
それではご案内いたします、と。
お帰りください、ということだ。
所長は一瞥もくれずに仕事に戻ったということだろうが、妙な違和感を覚えた。
まあオレたちは実際邪魔者だっただろう。
だが、あれが実の娘に対する振る舞いか。
家庭の事情なんてどこも色々あるだろうし、詮索する気もさらさらないが、なんだか腑に落ちない。
堤が来た道を戻る方向に歩き出した。
所長は奥に進んだので、真逆の方角だ。
茫然と、それでもしっかりとした足取りで歩くアンノウンを見守るように側でバルミーが歩く。
オレはやはり何かもやもやした感情を払拭できないまま、堤と連れの二人のあとを着いてゆっくりと進む。
地上階に戻り、入口に向かう際、堤が曲がり道を左へ折れた。
記憶にある入口の方向と異なる。
そのまま見知らぬ部屋に入り、お掛けになってお待ちください、と促された。
このまま帰らされると思っていたので、意図がまったく掴めずに椅子に腰掛ける。
バルミーとアンノウンも何も言わずに従うが、堤は部屋を出て行った。
しばらくして、見知らぬ女性が部屋に入ってきて、軽快な挨拶の言葉を発した。
「やあ、こんにちは。待ってたよ。」