002 A02 綻びは結べば直るかもしれない
志田樹の女性関係と、その人間関係からなんらかの集団が形成されている可能性について調査せよ。
この依頼に対して調査を行った結果、実際に異常とも言えるほどの数の女性関係はすぐに浮上したとはいえ、ただの女性好きとも異なる印象であり、さらにその何人かとは接触も試みたが、特別怪しさもない単なる友人関係に見えたものが多かった。
その女性たちの共通点も特に見出せないし、調査当時別件で発生していた麻薬取引との関連性もなさそうだった。
つまり結果はシロ。
何もなしだ。
もしかしたら、それは正しい調査結果だったのかもしれないが、俺は釈然としなかった。
そして、依頼は打ち切られたにも関わらず、突発的に志田樹を尾行するに至る。
調査終了から少し時間は経過していた。
実は追われていることに彼が気付いていて、当時は尻尾を出さなかっただけかもしれない、という淡い期待もあったし、事実俺も梨紗もこんな不思議な探偵らしき仕事にはまだまだ不慣れなのも事実である。
志田樹の行先は思いもよらず遠方だった。
突然車で出掛けたのを、車で追いかける。
俺の車はぼろぼろの小さな外車で、こんな突然のロングドライブになるのならもっとちゃんとメンテナンスをしておくべきだったかもしれない、と思う不安な走りではあったものの突然壊れるようなことはなかった。
高速道路に乗って走ること約4時間。
インターチェンジから高速道路を降りた頃には、都道府県を三つ跨いで日常では訪れない田舎道を走行し始めた。
着いた先はただのファミリーレストランである。
途中のサービスエリアでも彼と同じタイミングで給油をしたし、このファミレスでも同じ迷いはあったものの、こそこそすることの方が怪しいし、顔は割れていないと信じてただのデート中の恋人同士として振る舞おうという方針で梨紗とは意見が一致した。
ファミレスでは、彼の座ったボックス席から一つ空席を挟んだ席をチョイス。
たしかに空腹ではあったので、二人で軽食を取ることにする。
ほかの席にも客はまばらにいて、そこそこ賑わっていた。
しばらくすると、彼の席には一人の男性がやってきた。
志田樹と同程度の年齢層と見られ、白衣を着ている。
医者仲間だろうか。
この席配置で彼らが話し始めてわかったのは、会話は思ったより聞こえず、彼らの声のトーンが大きくなった時だけ一部のワードが耳に入ってくる程度。
席は隣にしておくべきだっただろうか。
梨紗とも小声でそんな話をしてみたが、微妙な混み具合だったからこれぐらいがちょうどいいよ、と軽く慰められてしまった。
耳に入ってきた言葉で頭に残ったものがいくつかある。
「研究所」「院長先生」「懺悔」。
なんとなく、彼らは職業上の関係ではなく、久しぶりにあった同級生のような印象であった。
話し振りにビジネス感が薄かったからだと思う。
院長先生というのは、謎の同級生が志田樹を指して言った言葉なのでまあいい。
懺悔は文脈がわからないと意味もわかりようがないし、そんなにひっそりとしたトーンで話さずに耳に届いたことから、冗談交じりに何かを表現した印象で、これも同級生側の発したワードだ。
あとから梨紗が調べてくれて、研究所も意味がわかった。
これだけは志田樹の発言だったのだが、今いる場所からそれが水谷科学研究所ではないかと推測して調べたところ、謎の同級生はその研究所長の水谷夕心であると判明した。
さらにのちに探偵らしい過去データ調査から、印象通り彼らが中学時代の同級生であることもわかった。