05 何がしたいのか?
嘉陵寺で起きた一連の事案についての一通りを、もはやミチには伝えてしまおうと思った。
特に伏せる理由はなかったし、少し長い話になるわけだけれど、彼女がそれを知ることを欲するのであれば、隠し立てすることはない。
とはいえ、あの仲間と呼んで良いかもわからないチームや、ミッションの話は適当にしつつ、姫君についてはある程度語ることにした。
ある程度といっても、わかっていることなんてわずかなのだが。
そして、その中で、妙な仏像に説教だか説法だかを受けた上、望む能力を発揮できなかったことも話した。
結果、ごたごたしているウチに寺は焼け落ちた。
オレは何もできなかった。
「サイコメトリがこれまでにできなかったケースは他にもあるんだよね?それと一緒なだけなんじゃないの?私は貴方が能力を使えなくなったようには感じなかった。」
しかし、呼び掛けに応じたはずではないか。
いや、待てよ。
無機物から過去を読み取るサイコメトリを発動できなかったことに気を取られてしまったが、あの仏像との会話はそもそもなんだったのだ。
それ自体がおかしいというか、むしろ常識で測れない出来事だ。
そんなことがたくさん重なったから、その点を蔑ろにしていた。
あの事件においてオレ自身に降り注いだ不思議といえば、そこに尽きるのだ。
もっとそこを良く考えるべきだ。
そもそもあの仏像はなんだ。
会話ができるということは無機物ではない。
サイコメトリができる対象ではなかった。
どんな可能性があるだろう。
実際なんらかの神様のような存在だったとして、呼び掛けについても会話についても、まあ完全に納得とはいかないまでもそうだったとしたら、能力など発動しようがない。
ほかにも、例えばあの仏像自体がグリムの器だった場合もそうだ。
それ以外にも、呼び掛けは別の何かから行われたケースなども考えられる。
とすると、オレは能力を使えなくなったわけではないのか。
試してみなければいけないが、なんでもかんでもできるわけでもない。
これは時を待とう。
能力を失ったわけではないとして、自分を取り戻すためにあとはなにが必要だろうか。
やはりグリムの器については知らなければいけないし、姫君やあのチームの面々についても、深掘りをして来なさ過ぎた。
何も知らない。
井の中の蛙というやつだ。
オレは結局何がしたかったんだろう。
もう少し考える時間が欲しいと感じてきた。
色々振り返ると、人生イージーモードだと勘違いして生きてきた結果、自分には足りないものがかなりありそうだ。
その一つはビジョンか。
姫君の役に立って、オレは何がしたいんだ。