幸福キャンパス 071
「改めて、はじめまして。ティア。」
「瞬、ありがとう。ようやく外の世界に出ることができました。ああ、長かった…。」
「待たせてごめん。でも会えて良かった。」
「はい。こんな日は来ないと思っていました。わたしは志田結樹を救うと決めた時に、半ば諦めていました。私か彼が力尽きるまで、わたしは彼の心臓の一部なのだろう、って。」
「それなのに、どうして君はそんな選択を?結樹が亡くなっても君のせいではなかった。」
「志田家には借りがあったのです。これでチャラですね。そうでなかったとしても、やはりわたしは目の前の救える誰かを見捨てられないかもしれませんが。」
「なるほど。僕がマスタでいる間は、もうしないと約束して欲しい。」
「ええ。もちろん。」
「ところでティアは、きっと長い年月、魂をその身に宿した状態、というのかな、生きている認識なんだけど、この世の移り変わりや今のこの世の状況などをどこまで把握して、どう見ているものだろう。漠然とした聞き方で申し訳ないけど。」
「いえ。…そうですね、おそらく貴方が思うよりもわたしは長く意識を持った状態だと思います。何千年なのか何万年なのかもわかりませんし、数えてもいません。だから本当に今というのは一瞬のこと、政治・宗教・経済などはとても大きな流れの中の刹那でしかない。慣れてしまったのか、飽きてしまったのか、はたまたそのように作られたのかはわかりませんが、あまり関心を持てないのが正直なところなのです。」
「そうか…。では世界情勢や日本の現状のような、僕らからしたら規模の大きな話は無粋だ。控えるようにする。では、志田樹、ティアが救ったユウキの父のことは?」
「色々とお気遣いなく。わたしのわかる範囲のことは遠慮なく聞いていただいて問題ありません。志田樹…、彼の対処についてはちょっと相談しなければと思っていました。」
「…というと?」
「志田樹は悪魔に魂を売ったのです。」