幸福キャンパス 070
夢ではなかっただろうかと思う。
いつ能力を解除したのかも覚えていないほど、僕は夢中で会話をした。
ティア。
それが僕の器の愛称だという。
ただ心の中で呼び掛けただけだったのだけれど、これで正しかったということだろうか。
10数年に渡り、僕を待っていたと言った。
彼女は、…なんというか、会話した印象がとても女性的だな、と感じたから彼女なのだけれど、一方で人間ではない、神のような、僕たちよりも遥か上位の存在である感覚。
とても、キレイな対話で、姿も美しくドキッとさせられた。
もっと体内の粘液や細胞と癒着して、グロテスクである覚悟もしていただけに驚いた。
小さな丸く蒼い宝石が、まるで女神のような印象として心に焼き付いた。
僕の気持ちは完全に固まった。
リンの目を見て話す。
ユウキにも、ミアにも、姉さんにも、ナオトにも、もちろん伝えているつもりだったが、僕はどうしてもリンの瞳を直視せざるを得なかった。
興奮しているのを自覚すると同時に、妙に冷静で、リンの懸念のほとんどを吹き飛ばすことができる情報を得たことが嬉しかったのだ。
未だ拭えないもやもやは一つだけ残る。
それは、ユウキの父、志田樹のことだけれど、ユウキの命に関わる心配事が払拭できたことや、あんなに明確にティアと会話できたことで色々と吹っ切れた。
冷静である気はしたけれど、一息つきたいと感じた。
ふっと気持ちを抜く瞬間を超えないと、なんだか怖かった。
そのあとのことは、空耳のような、どこか遠くで声が聞こえていたような感覚だったが、すべて覚えていた。
ユウキも、もちろんみんなも僕の話を聞いた結果、決行の気持ちは固まり、すぐに病院の手配などを済ませて三日後の夜に実施するスケジュールまで確定させてしまった。
帰宅してからリンに泣かれてしまった。
久しぶりのことだ。
なんだか遠くへ行ってしまうような気分になった、と言われたし、なんとなく言っていることはわかるような気もしたけれど、僕は大丈夫だと答えた。
ティアはおそらく僕やリンを守る精霊のような存在になってくれる。
リンから僕を奪うようなことはない。
根拠などなかったけれど、ただそう感じたことをそのまま伝えただけだ。