幸福キャンパス 069
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嗚呼、長かった。
これまでの10数年。
志田結樹と一体となってから、わたしは自由をほぼ失って、彼を生かすことだけに集中してきた。
わたしが選んだ所有者が、わたしを見つけてくれるまでになるほどには年月が経過した。
待ち焦がれた。
自由を奪われながらも、結樹を通じて知る外の世界がどれほどに恋しく、どれだけこの瞬間を渇望したことか。
わたしの力のほとんどは結樹の身体に負担を掛けずに、共存することに使っていたから、それ以外のことをするだけの余力などなかった。
すべては無駄ではなかった。
おそらく、この間に正常化した結樹の心臓はもう大丈夫だと思う。
しかし、ここから出る術がなかった。
わかっていたが、見捨てることはできなかった。
マスタがわたしを外に連れ出してくれることだけが、私はわたしが解放される唯一の条件だったのだ。
否、もう一つ方法がある。
それは、志田結樹の命が終わる時だ。
またはわたし自身の力が尽きる可能性もあった。
マスタがわたしの姿を確認したことがわかった。
嗚呼。
感無量だ。
解放されたら、わたしは貴方と共に生きるという次のステージにようやく進むことができるのです。
「ようやく会えた。はじめまして。君の名は?」
「待ち侘びました。はじめまして。わたしのことはティアとお呼びください。遠い昔、わたしが槍の姿をしていた頃のお気に入りの愛称なのです。」
「ティア…。わかった。ありがとう、ティア。早速だけど、僕は君を志田結樹くんの体内から連れ出そうと考えている。それがうまくいったとして、彼の心臓はもう大丈夫なのだろうか。」
「はい。この10数年の歳月の中で、志田結樹の心臓は正常に機能するように改善できたというのがわたしの見解です。今はもうわたしは機能の補完はしておらず、ただ彼の心臓にとって邪魔にならないように共存しているのみです。」
「そうか。ありがとう。それじゃあもう一つ。ティア、君自身の気持ちを確認しておきたいんだ。僕はその場所から君を連れ出そうとしている。それはティアにとって不都合なことではないだろうか。」
「瞬。こちらこそありがとう。本当にずっと貴方が来るのを待っていました。わたしはマスタに選んだ貴方に見つけてもらえなければ、志田結樹の命が尽きるまでここから出ることはできなかったのです。」
「そうだったのか…。待たせて申し訳なかった。話ができて本当に良かった。準備にもう数日欲しいのだけれど、必ずそこから連れ出すからもう少しだけ待っていて欲しい。」
「お安い御用です。お待ちしております。」
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