Grim Saga Project

幸福キャンパス 068

 
 
 
ユウキは器とは、夢の中で会話していると言っていた。
だが、これまでのことを色々振り返ると、マスタと器は夢の中でなくても会話できるはずだ。
ユウキの話を聞きたい、とリンから聞いた時、それであれば器の意思も確認すべきだと考えた。
可能だろうか。
器のマスタは本当に僕だろうか。
呼びかけに応えてくれるだろうか。
器自体はどう考えているのだろうか。

僕は器の名前を知らない。
妖精いわく、器の名を知るのが良さそうだがそれはどうやるのだろう。
姉もおそらく他のメンバーたちもまだそこまでは到達していない。
ふと考えた。

ユウキに許可を得て、その姿を確認したいと思った。
何をすればいいですか?とのユウキの問いに、何もせずにじっとしていてくれれば良いと答える。
人の体内は苦手だが、腹を括って器を見てみることにした。
極力負担が掛からないようにユウキに近づいて、目に集中する。

能力の利用は今後も必要になる。
今回のミアのようなきっかけがなくとも、それは身に染みていたので、継続的に鍛錬は積んでいた。
結果的に、適度なリラックスが必要だという感覚に至る。
特殊な能力の行使を、自らが特殊な精神状態で行うのではなく、極力日常と変わらない状態で行う。
だから、トランスするようなこともなく、日常の風景の一環として必要に応じて見えるような意識をすることにしていた。

少しずつ彼の体内に視界を移す。
その世界に身を委ね過ぎないように意識。
皮膚がゆっくりと見えなくなり、血管から様々な内臓までが目に入る。
そして心臓。
これまでなるべく見ないようにしてきたが、透過をする中で不可避なのだ。
視界に人間がいない風景の方が少ない。

だから、それにも耐え得る鍛錬も積んでいたが、透視の対象が体内であるケースは初めてだ。
今回の行動にメドが立ってから、一層訓練してきた。
移動の電車の中で能力を使えば、否応なく視界には不特定多数の人間がいる。
そんな状況での訓練もしてきた。

心臓を注視すると、そのほぼ中心に小さな丸くて蒼い宝石があるのがわかる。
これだ。
これが、僕の器のはずだ。

ようやく会えた。
はじめまして。
君の名は?

声に出さずに、僕は器に語りかけた。