幸福キャンパス 064
石ころやアメ玉もさることながら、もっと簡単にミアの意識の影響が確認できた事象があった。
ミアとまったく面識がない男性、僕の大学でできた同級生の一人に協力してもらった。
彼に目を閉じてもらって、ミアと手を繋いだ状態だと、その彼は一緒にテレポートすることができない。
僕やリンはもちろんできる。
なるほど、これは意識の影響だと言える。
そういえばリンの能力は、器に起因しないはずではあるが、やはり心の状態で大きく変動がある。
少なからず心の在り方が能力に影響するのだろうと考えて良さそうだ。
僕にもそういうことは起きるのだろうか。
ともあれ、姉の仮説はある程度実証された。
あとは検証からスキルアップへシフトチェンジして、成功率を高めることでだいぶ現実味を帯びるのではないか。
急に自分の手に、今僕が有している特殊な能力の根源となった器が舞い降りるイメージが湧く。
まったく考えていなかっただけに、少しの戸惑いと少しのドキドキワクワクする感じ。
ミアは健気なまでにテレポートの訓練を重ねた。
時間がかかりつつも、口に含んだアメ玉を残してテレポートすることに成功したことを皮切りに、少しずつハードルを越えていく。
あえて飲み込んだアメ玉を残したり、それをリンで試したり、僕が体内を見る訓練を始めたり、指輪を通じて視覚情報を伝えたりと、姉の考えた器取り出し作戦の実施に向けて着実に進んでいった。
訓練から一ヶ月も経った頃、これならいけるかもしれないと思うレベルに到達していた。
そうそう。
この作戦を実行に移す前に僕はリンと話をした。
乗り気ではない理由についてだ。
聞けば、現実味を増してからも引っかかりはあるのだという。
理由はいくつかあった。
まず、成功したとして本当にユウキの健康面に支障を来さないのか、という懸念。
たしかにそうだ。
いくら現代医学でOKと言われようと、グリムの器などという計り知れないものを相手にしてその見識は通用するかどうか保証がない。
他には漠然とした不安なんだけど、という但し書き付きでリンが話したのは、要約すると色んなもやもやが解決していないことに対するこのアプローチそのものが最善ではないかもしれない、というような内容だった。
普段歯切れの良い言い方をする傾向のリンにしては、抽象的だ。
自覚もしているらしい。
そうなっている理由について、何か隠し事をしているからというわけでもなさそう。
しかし、聞けば聞くほどリンの言い分もわかる。
ユウキの器が体内から取り出せたとして、何かが解決するかというと、確証はない。
それどころか、具体的な進展イメージすらない。
まだ考えられることがあるんじゃないか、というような口調だ。