幸福キャンパス 058
「やあ。元気?」
「ええ。というか、僕は元々そんなにまだ活動していなかったし、あまり何も変わらないですよ。」
「そうか。それならその方がいい。僕もようやく元の生活に戻りつつあるよ。」
「そんなもんですか。」
「愉快な事件じゃなかったよ、少なくとも。」
「まあそれはそうですね。」
「今日はどうかした?」
「いえ、たまたま通り掛かったら先輩を見かけたのでなんとなく。…んー、でもせっかくだからついでに一つ。」
「器の話だね。」
「ええ。先輩は、僕の体内にある器を欲しいと思いますか?」
「ああ、考えなかったな、それは。取り出せない前提だったから。あ、いや、ごめん。そうすると君は解放されないことになっちゃうんだよね。僕がマスタなのだとして、僕と会えた器のその後に変化はあるの?」
「そんなに頻繁に夢で会えるわけでもないから、まだわからないんですよね。少なくとも先輩がマスタだろうということでお会いするようになってから、まだそういう機会がありません。」
「そうなんだ。そのまま何もなければ、それはそれで解決なのかな。」
「たしかに…。それじゃあ仮に、取り出す方法があるとしたらどうでしょう?」
「うーん、仮に、ね…。そうだなあ。そういう好奇心が、今この話をする中で少し芽生えた。でも、仮の話だからね。あまり思うところはないよ。」
「現実主義者ですね。こんなに不思議なグリムの器の話で現実主義ってのも変ですけど。」
「つまり、君はやっぱり取り出したいってことなんでしょ?」
「ええ。怯えるようなものでないのはわかっていますが、僕もやはり器のない状態、みんなと同じだと何か今と変わるのか知りたいってのがあります。当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかった衝撃があって、もしかしたらまだ自分では気付いていない、他者と違うことがあるかもしれない、って気持ちに捉われている自覚があるんですよね。」
「取り出す手立てがあるとして、この前話してくれた先天的な疾患の問題はないのかな?」
「実はそれ、調べてあります。もちろん器がどの程度僕の心臓の機能を補完しているのかわかりませんので、それは無視ですけど。現状だとまったく問題ないように見えるそうです。」
「なるほどね…。」