幸福キャンパス 053
もちろんあとからこってりと戌亥と泉田にお叱りをいただいたわけだが、無事サオリとユキは捕えることができた。
マリオも命を落とさずに済んだ。
すべての選択肢が、タクシーを使ってマリオの自宅へ向かったことも、サオリが部屋の奥にいるのを見つけたことも、その先の行動を見誤ったことも、最悪を導く悪手だったかもしれない。
ギリギリでソウが飛び込んできてくれなかったら、あるいは本当に多数の死者が出ていたかもしれない。
ソウの見た最悪の未来は回避できたようだが、どこがその分岐点だったのだろう。
ユキとサオリは麻薬取引を行うグループの一員だったようだ。
ケンイチの葬儀の席で、マリオと会話した。
「もう傷はいいんですか?」
「ああ、すっかり。」
「それは良かったです。まさかこんなことになるなんて。」
「本当に信じられないよ、未だに。ケンイチもカズマももういない?どうして、どうしてこんなことに…。」
「先輩はどこまで知っていたんですか?思えばケンイチ先輩の心配をしていた時から普通じゃなかった。」
「ああ、シュンは何も知らなかったのか。巻き込んで済まなかった。そもそもHCLは、オカルト研究会のようなものだったんだ。三人で作った。そのうちにオカルトだけが対象というわけではなくなってね。元々俺はみんなで楽しく過ごせる場所があれば良かったのに。」
「オカルト…?」
「オバケとか幽霊とかさ、マユツバな噂話とかケンイチが割と好きで。ある時、ケンイチが酒を飲んだあとに、持病のための薬を服用したら本当にそういう現象に遭遇できた、と言い出した。カズマは面白がって、だったら試してみようってことで、色々なルートから普通じゃ手に入らないような薬まで入手できるようになっていった。」
「普通じゃ手に入らないような薬って?」
「薬局で買えるような薬って限られててさ。ちゃんと医師が処方しないと手に入れられない薬って実はいっぱいあるんだ。あそこは親が薬剤師やってるから、多分実家の薬局からそういうのをくすね始めた。」
「なるほど。でもそれがどうしてこんなことに?」
「この辺のくだりも全部警察には話したし、口止めもされてるんだけど、シュンには話しておくよ。迷惑を掛けて申し訳なかった。さらにおかしなことになっていったのに、俺は気付けなかったんだ。知らぬ間にあいつら、色んな薬を人に盛るようになっていった。最近、それを見境いなくやるようになって。危ないからやめろ、って散々言い聞かせてたんだが、聞かなかった。」
「そして、歯止めが利かなくなった二人はついに麻薬に手を出した。」
「警察から聞いたかい?まったく俺は無力だったよ。さすがにそこまで堕ちてるとは予想もしてなかった。幼馴染が二人揃ってトチ狂うだなんて、信じられなくてね。正直未だに俺はユキとサオリと出会ってしまったのが良くなかったんじゃないかと思ってる。あの二人は、カズマとケンイチが連れてきたんだ。多分元々繋がってたんだろうね。」
「HCLに入れる時は、まだそれを知らなかった?」
「知ってたら入れるわけがない。ケンイチが死んだ日、あの懇親会の日だよ。あの時、シュンたちと別れて、飲み直そうってなったんだが、どうもカズマたちが4人で共謀して俺にクスリを盛った。意識が戻ったあともしばらく気持ちが悪いし、ぐわんぐわんしてた。俺はHCLで健全なコミュニティを作って、そんなくだらない遊びをやめさせたかったのに。」
「あの時何があったんでしょう?どうしてケンイチ先輩はあんなことに?」
「この話は警察にも話してないし、あまり話したくもないんだけど、一人で抱えておくにはキツくてさ。聞いてくれるかい?」
「ええ、構いませんよ。」
「カズマにあのあと脅されたよ。ケンイチを殺したのはお前だ、って。」