幸福キャンパス 051
「あれ?シュン先輩たちまで来ちゃった。タイミング悪ーい。腹立つからもうみんな死んでもらおうかな…。」
先ほどまで虚ろに来ないでだけを繰り返し呟いていたユキが、顔を上げた。
僕らの顔を見てニコニコし始めた。
これはまずい。
僕は少しだけ後ろを振り返り、二人とも動かないで、と呟いた。
サオリさえ逃げてしまえばおそらく大丈夫なんじゃないかと思う。
しかし、その後ユキも全員殺して逃げようとしたらどうだろう。
さすがにそこまで愚かではないと信じたい。
罪は増すばかりだし、いずれ確実に捕まる。
やめるんだ、そんなことをしても罪が重くなる一方だぞ、という泉田の諭すような声を聞いて、ユキが少しナイフをスライドさせるように引いた。
マリオの首が少し切れて、数秒後に血が一筋細く滴った。
「だってさー、もう警察来ちゃったんだからわかってんでしょ。クスリのことも、すでに殺しちゃってることも。だったらもう何人殺しても変わんなくなーい?」
無邪気な表情で淡々と話すユキがとてもおそろしく見える。
それに対して泉田もうまい説得を思いつかないのか、少しの間無言であった。
「…いや、ダメだ。一人殺したから二人も同じなんてことはない。とにかく、その彼を解放しよう。離れれば解放してくれるかい?」
「え。なんで離れたら解放すんの?意味わかんない。」
「君の言う通りにする。どうしたら良い?」
「じゃあ誰か代わりに殺されて?」
泉田が答えに窮していると、後ろからミアが小さく囁く。
ねえ、シュン、もういい?
僕は小さく首を横に振る。
ミアはテレポートして、ナイフを叩き落とそうとでもしている。
しかし、やはり直感的にそれはダメだと思う。
なんで…というミアの声が聞こえてきそうだ。
信用してないとかそういうことじゃない。
このまま行ったら予言の通りの最悪が来る気がしてならないのだ。