幸福キャンパス 046
二階。
左から二つ目の部屋。
泉田の姿が見えた。
限界だった能力を解除、ソウやユウカもじきに到着するだろうけれど、それを待たずにリンとミアを促してアパートに駆け込む。
部屋に突入してどうするかは決めていない。
マリオがホントに危ないのであれば、そんなことを考えているよりも先に彼の元に行かなければならないと感じたからだ。
リンとミアの方がよほど自己防衛に適した能力を有しているけれど、そうではない。
彼女たちを先に行かせるわけにはいかないと思ったから、見えたとだけ伝えて自分が先を行く。
階段を駆け上がるのもキツかったが、透視を解いてから頭痛が急激に和らいだので、どうにか堪えて走る。
ゆっくり向かっていたらパトカーに待機しているであろう別の刑事に見つかって止められてしまうかもしれない。
とにかく無我夢中で目的の部屋まで辿り着くと鍵も確かめずに中に入った。
「来るなっ!!」
振り返らずに泉田が叫んだ。
僕らの姿を確認していないから同行した刑事だと思っているかもしれない。
背を向けて立ちはだかる泉田に隠れて、奥で何が起きているかは見えない。
それとも信じたくなかっただけで、なんとなく予想はしてしまっていたのだろうか。
マリオの首に左腕を巻き付け、右手でナイフを首元に押し当てるユキの姿を見た時、なんとなく、ああ、やっぱり、という感覚がかすかにあった。
マリオはぐったりしていて、ユキが中腰で引きずってきた。
ナイフを当てているのだから、生きてはいるはずだ。
泉田が落ち着いた声でユキにポツリポツリと呼びかけている。
刺激しないようにしているのだとわかる。
ユキの目を見た。
クスリのせいでこんなことになっているのか、と感じたからだ。
しかし、僕にはその目が正気か狂気か、見分けはつかなかった。