幸福キャンパス 045
タクシーに乗った。
二台に分乗。
僕の詳しい話を聞いた泉田はおそらくマリオと会う。
この数日のことを考えるとマリオが大学に来る可能性は低いだろうし、僕たちはマリオの自宅を知らない。
マリオの自宅に行く可能性が高いと踏んだ泉田の乗るパトカーを追うことにしたのだ。
たまたま都合よくタクシーが二台通り掛かるはずもなく、比較的すぐに来た一台目に乗った僕たちは、リンとユウカが電話をしながら道案内をして、二台目には追って来てもらっている。
途中でリンの会話に異変が生じた。
「え?うん。うん。ソウさんが?うん、わかった。できるかどうかわかんないけどお願いしてみるね。運転手さん、すみません、ちょっと急いでもらえますか?今から行く先にいる人の命が危ないかもしれないんです!」
マリオの命が危ない?
ソウが後ろから追ってくるタクシーの車内で、また新たなビジョンを見たということなのだろう。
これが初めから危惧していた危機なのだろうか。
その予知をまた無条件に信じるなら、いや、ここまでの話に何も矛盾がなく、ケンイチもカズマもこの世を去ってしまった事実からしても、信じるべきだ。
そしてリンとユウカの電話の切迫した感じからすると、今すぐにでもどうにかしないといけない。
このドラマのようなカーチェイスが成功することを、まずは祈るばかりだ。
だいぶ先を走るパトカーが15分程度のドライブの後、目的地に着いた。
見たことのない場所だ。
少なくとも経路から向かう先が大学ではないのはわかっていた。
パトカーが停まったすぐそばのアパートがマリオの家であることを祈る。
リンの頼みの通り急いでくれた運転手に礼を言い、金を払って降りる。
目的の部屋が何階の何号室かわからない。
ここからの判断は迅速にすべきだ。
ユウカたち四人もすぐに追いつくだろうが、待たずに動くべきだと思う。
リンとユウカの電話はもう切れていた。
まだここ一番のタイミングがあるかもしれないが、出し惜しみしている場合じゃない。
力の使いどきだ。
リンとミアに一言力を使うことを告げて集中する。
僕の透視は何かを透かして見るのではなく、一定の距離にあるものすべてが見えなくなる。
だから距離が遠ざかるほど球状に広範囲で効果が及ぶ。
短時間で一気に見て場所を特定しようと思った。
アパートは三階建て。
奥行きはわからないが、パッと見の横幅では5部屋はあると思う。
近寄る手もあるが、能力を発動しながら視界を上下左右に移すのは難しいことを知っている。
タクシーを降りてパトカーの場所を確認してからすぐに、パトカーの死角となるブロック塀の影に移動していた。
一望できる距離だ。
塀を透かしてみれば良い。
どんどん色んなものが見えなくなり、アパートの中が少しずつ見えてくる。
頭の中でギギギギと軋むような音がする。
痛い。
苦しい。
あと10秒も持たない。
…見つけた。