幸福キャンパス 043
「どうしてそう思った?少年?」
「おそらく僕たちには時間がない。探ってるヒマがないので、まず関係ありそうな情報を先にご提供します。時間がない、というのは色々と理由があるのですが、もう一つ人命に関わる事件が起きる直前だとわかっているから急いでいます。残るたった一人の三年生、僕らがマリオと呼ぶ先輩と亡くなった二人の三年生三名を含むサークル関係者の一部が集まった場所で少なくとも合計三回は、メンバーが見た目にはただの深い睡眠ですが意識混濁に陥りました。僕がこの春サークルに入ったのは、そこに危険を感じたので被害者を出さないためでした。」
「なんだって?まあ、なんでもう一つ事件が起きるのか、はいい。またあれだろ、不思議な力がなんとやら、だ。じゃなくて…どうしてそんな情報が今まで出て来ねぇんだよ、…おい泉田!」
「はいぃ!」
「緑川のあんちゃんから詳しく聞いて掘り返し直せ。今までの情報は無視していい。今の話がホントだとすると、マジでもう時間がねぇ。もう一件起きんぞ。」
「は、はい!」
「んじゃあ、裏を取る前だがおそらく今の話は真実だ。こっちからも礼がてら一つ話しとく。お前さんの見立て通り、以前からウチの別動隊がこの大学には目をつけていた。麻薬密売人が潜んでるっつー話だったからだ。そんでどうやらそいつは学生らしい。」
「麻薬…?」
「俺たちが動いてる理由の話をしてやる。たしかに時間がなさそうだ。麻薬密売人の一人は今回の被害者、銚子和真だった。だが銚子はクスリを流してはいたが、入手はしてない。もう一人裏のルートに通じてる人間がいる。それは坂藤堅一じゃあない。その証拠に銚子和真は坂藤堅一の死後もクスリをバラまいてた形跡があるからだ。坂藤の死以前にストックしておいたものの可能性はあるが、銚子和真の自宅から押収したクスリは少量だった。どうも必要に応じて入手してたらしい。今年になって動きが派手になったもんだから、ウチの別働隊が目をつけていた。」
「となると、ケンイチ先輩はどういう…。」
「睡眠導入剤だ。銚子の家から少量の麻薬と一緒に、大量の睡眠導入剤が出てきた。これの意味がわかんなかった。そんで、銚子和真が坂藤堅一に睡眠導入剤を流していた情報は掴んでた。坂藤堅一は睡眠薬を他人に常態的に盛ってやがった可能性が高い。」
「もう一人、クスリを入手していたのはマリオ先輩でしょうか。」
「普通に真っ当に考えりゃそうなるわな。だがまだそれは100%決まりじゃない。坂藤堅一が他者に睡眠導入剤を飲ませてた理由もまだわからねぇ。」
「うーん…。」
「ねえ、シュン。なんか変じゃない?」
「リンもそう思う?」
「うん。」
「てゆーかさあ、まあちょっとキモい話になっちゃうけど、いたずら目的で睡眠薬を盛ってたんだとしたら、ウチ多分無事じゃなかったよねぇ。」
「そう。それもそう。それに、僕やミアをサークルに引き込んだのもおかしい気がする。女の子のサークルメンバーを集めるといっても、明らかに僕やミアは意識混濁事件を間近で見ていてリスクが高い。なんかしっくり来ない。」