幸福キャンパス 032
ガラッと空き教室の扉を開けて入って来たのはユウキだった。
そして、その後ろにもう一人女性。
ユキではないから、サークルメンバーではないことになる…が。
「あれ?マシロさん!?」
「え?シュン?…って、リンも、ミアもいるじゃない。どうして?」
「いや、どうして、ってここウチらの通ってる大学だよー。そんでこれ、ウチらのサークルの集まり。どうして?はこっちのセリフ。なんでマシロさんがここにいるのか、なんでユウキくんと一緒にいるのか、何が何やらさっぱりだよ。」
「あなたたちが彼のサークルの仲間…。どこまで共有しているの?いえ、というか、このサークルってなんなの?あれ?リンはたしか、…いや、無粋か。」
「ええ。私はここの学生でもなければ、もちろんサークルメンバーでもないんですけど、シュンやミアといるうちに成り行きで一緒にいます。」
「何か起きてるのね。」
「はい。僕たちも驚くような出来事の連続です。何がどうなってるのやら。」
「いや、ちょっと待ってください。みなさん色々聞きたいことがおありでしょうけど、彼女とどういう関係なのか多分いま一番わけがわかってないのは僕ですよ。」
「え、じゃあユウキくん、ウチらとマシロさんが知り合いだって知らずに連れてきたん?」
「はい。本当に偶然です。…ミアさんたちとマシロさんはどういうご関係なのですか?」
「いや、えっとごめん。サオリさん、ユウキくん、マシロさん、詳しくそれぞれの疑問を解消するより、最優先で解決しなきゃいけないことがある。協力してほしい。」
さて、この問題解決、つまりは目の前の危機回避に向けた最低限の説明で、判断に迷った。
マシロは当然僕、リン、ミアの側の人間だからいいとしよう。
立場的にサークルとは無関係なのでそこだけ考えれば良いが、ユウキと繋がっていたのであればそれも不問にしてしまえる。
ユウキはマシロとの繋がりがあることを考えると、器となんらか関係している可能性が高い。
サオリにどこまで話すか。
単純な目論見で行くなら、器についてもある程度の情報を共有して、ケンイチの自死とHCLにも関わりがあることも話した上で、誰かもう一人に危機が迫っていることを伝えて協力を要請すればいい。
が、予知の曖昧さは遅れてきた三人も加害者または被害者になる可能性を含んでいる。
ほかにも、この話はそんなに単純化してしまって良いものか迷う要素は多い。
慎重になれ、という黄色いアラートが脳内に点滅しているのだ。
しかし、サオリとユウキが招集に応じた以上、今この場にいないのはマリオ、カズマ、ユキだけになった。
今まさに目前に迫る危機と、ソウが元々警戒していた危機、二つとも加害者はその三人の中にいるのだろうか。
この場にいる誰かがどちらかの加害者になりうる場合、情報の出し方に気をつけないと裏目に出てしまう。