Grim Saga Project

幸福キャンパス 030

 
 
 




「こんにちは、貴方が志田結樹さんね。」

「こんにちは。…どなたですか?」

「あ、そんなに怖がらないで。私は貴方のおじいさまの、んー、歳の離れた友人かしら。」

「じいちゃん変わってるからなあ。それで?僕に何の用ですか?」

「ちょっとお話聞かせていただけないかしら?」

「うーん、内容に依ります。」

「どんな内容なら良いの?」

「そうですね。とりあえず面倒ごとに巻き込まれる話はお断りです。」

「この話が貴方にとって面倒かどうか、私にはわからないわ。」

「はは。たしかに。いいでしょう。ただ、ちょっとサークルの仲間に呼ばれているようなので、向かいがてら歩きながら軽く聞かせてもらう、というのは?」

「あら。あまり希望の形ではないけれど、贅沢は言わないことにする。一旦そうしましょう。でも、続きを聞くことができそうなら場所は改めさせてね。私ノドが渇いちゃって。」

「それでは早速。何が聞きたいんですか?」

「単刀直入に。先日おじいさまとお話していて、特別な持ち物の一つを貴方が持っている、って聞いたの。その話を聞きたい。それはもしかすると、私たちが器と呼ぶものかもしれない。」

「器、か…。貴女はグリムの器についてどこまでご存知ですか?」

「へえ。ちゃんとわかっていたのね。探り合いをする気はないの。私が知っていることは大したことではない。昔グリムという一族が作ったもので、それぞれ特殊な特徴を持つこと、またそれは記憶に関する能力であることが多く、時には所有者と心を通わせることすらできる。」

「ふうん。初めてこんなに詳しい方にお会いしました。いくつか質問してもいいですか?」

「ええ、もちろん。私の質問にも答えてくれると嬉しいけれど。その様子だと面倒ごとではないようね。」

「いえ。残念ながら僕にとって最大の面倒ごとでした。ただ、面倒ごとの中で唯一、例外的に断ることのできないものでもあります。僕も可能な範囲ではお答えしますよ。」

「あら、嬉しい。それじゃあ先に私が質問に答えるわ。」

「ありがとうございます。ではまず一つ。貴女はなぜグリムの器のことを詳しくご存知なのですか?」

「簡単よ。私よりも詳しい人がたくさんいる環境に身を置いていたから。私もまず一ついいかしら。いつから持っているの?」

「なるほど。互いに質問し合うと平等ですね。それじゃあ答えてから次の質問をします。厳密に言うと僕は器を持っていません。ですが赤ん坊の時からです。」

「え。ちょっと待って。それはおかしいじゃない。」

「ふふ。ウソはついていませんよ。次は僕の番ですね。貴女は何のために器を探しているのですか?」

「うーん、何のために、か。始めは姉のためだと思っていたのだけど、それはただの言い訳で、結局自分が前に進むためなのだと今は思ってる。」

「興味深いですね。僕とは真逆だ。」

「気になることばかり言うのね。器を持っていないのに、赤ちゃんの時から、という回答の意味を教えてもらいたいわ。考えていたけどわからない。」

「一心同体なのです。僕と器は。いや、二心同体か。だから持つも何も取り出したりしまったりはできない。ただそれだけのことです。」

「幼い時から身体の一部…?余計にわからないわ。」

「それじゃあ次です。貴女は器を手にしたら何をするつもりですか?」

「どうもしない。この手で器に触れてみたい。私が選ばれるかどうかも確かめたい。」

「それは残念だ。僕と器は同体だから、それはできません。僕の意思とは無関係に、物理的にできないのです。」

「赤ちゃんの時から器が身体の一部だからって、その知識は勝手に得られるものじゃない。どうして貴方はそんなにグリムの器について知っているの?」

「調べたんです。なぜ?と聞かれるのは明白なのでこれも先に答えておきますね。僕は器に呪われている。だから、解放されるために、です。」