幸福キャンパス 026
「やあ、初めまして、お嬢さん。」
「初めまして、志田さん。」
「私が君と会うのは初めてだね?」
「はい。お初にお目にかかります。」
「こんなところを訪ねて来るからには何らか事情がおありだろう。」
「ええ。でもそんなにその事情に今は執着していません。興味本位で動いているようなものです。」
「ほう。それは愉快だね。探し人か、探し物だね?」
「はい。失礼ですが、ここにはそのような方々がいらっしゃるのですか?」
「時折私と面識のない人間がこうやって来ることがあるが、なぜだかなにかを探している人ばかりなのだよ。」
「そんなに頻繁にいらっしゃるのですか?」
「いや、年に2〜3回かなあ。」
「それじゃあ私は貴重なそのうちの一人、ということになりそうですね。」
「はっはっは。そうなるといいな。君はなかなか頭がいいようだ。名は?」
「ありがとうございます。申し遅れました、私は橋本真白と言います。本名です。」
「ほう。真白くん、それじゃあ君の話が面白ければその名を記憶しよう。」
「難しいことを仰いますね。私の探し物の話がそんなに面白いかどうか。」
「では、聞かせてくれたまえ。」
「はい。端的に申し上げます。私はグリムの器というものを探しています。」
「聞いたことがないな。私の持ち物の中にそれがある、と?」
「確証はないのですがそういう情報を入手しました。グリムの器というのは、はるか昔に存在したグリムという一族が生み出した品々の総称で、それらの一つ一つに不思議な力が宿っているそうです。」
「一つ一つが持つ、そのいわゆる不思議な力というのがどのようなものかはわかっているのかい?」
「いえ。個別の器については、ほとんど情報がありません。それぞれ異なるようです。ただし、共通項的に言われているのが、どうも記憶に関する能力だとか。あとは所有者を選ぶとも。また、所有者がその能力を使役することがてきたり、器と会話できたりするなど様々なケースがあるとも聞きましたが、私が知っているのはその程度です。」
「なるほど。実は今の真白くんの話を聞いて一つ思い当たった品があるよ。しかし残念ながらそれは今私の手元にはない。君はそれを手にしたらどうするつもりだい?」
「どうもしません。」
「というと?」
「以前はその器に色々執着があり、器を探し出して所有者として選ばれることで得られるものがあると考えていましたが、そうではないと気がつきました。ですが、やはり一つのキーアイテムではあるでしょうし、先ほどもお伝えしたように興味もあります。だから手に入れることが、いえ、お借りするだけでも、私が手にしてみることに興味があるだけ、ということになります。」
「面白いね。もう少し詳しく聞きたいところだが、今日はやめておこう。私は君を気に入った。だから今日の話はここまでにしておくが、一つ情報を提供しよう。その器かもしれないものは、今私の孫が持っているはずだ。」
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