幸福キャンパス 022
ケンイチが自ら命を絶った原因はなんだろう、という思考にどうしても向いてしまう。
今考えてもわからない、とはしたものの何かが引っかかっていた。
その何かはすぐに思い当たった。
短期間に起きたサークルメンバー内でのいくつかの意識不明事案。
少し前まで大きな違和感だったが、その後色々あって、保留にしたまま忘れかけていた。
何かクスリを飲まされたことを疑っていたわけで、その犯人がケンイチ先輩だったとしたら辻褄は合うだろうか。
いや、たしかに三人が意識を失ったが、どれも大事には至っていない。
自ら命を絶つほどのことではないはずだ。
それとも、同様の手口でもっと悪質な被害を受けた誰かがいる、という可能性はどうだろう。
罪悪感なのか、罪に追われる危機感なのか。
何がそこまで彼を追い込んだのだろう。
やはりここはひとつキーポイントのように思うが、これ以上は推測の域を出まい。
「ところでな、ユウカちゃん。」
「なあに?ミア。」
「ユウカちゃんやソウちゃんたちには言っておきたいことがあるんだよね。いいよね、シュン。」
「ミアはそうやっていっつも決めて話し始めてから振るから止めようがないと思う。」
「はは。ごめんごめん、性分みたいで…。私たち付き合ってんのよ。」
「おい。」
「という風に、色々あって先輩たちには言ってるんだけど、実は違うんだよね。だから、そういう風に見えるように振る舞うことがあるかもしれないけど、それフェイクだから。」
「なんで、それそんな改めて言うこと?そもそも知らなければ済むような気もするけど。」
「うーん、たしかにぃ。でもミアちゃん、性格上そういう隠し事苦手そうー。」
「まあまあ、ナナミちゃんにソノハちゃん。それもそうなんだけどね、この前の飲み会に来た時のゲストでリンちゃんって子、連れてったでしょ。あの子がシュンのハニーなの。」
「え。マジで。全然わかんなかった…。」
「だからさ、ウチとシュンって付き合ってんのかな、って誰かが思ってるかもしれない中にリンちゃん連れてきづらい。」
「そういうことなら了解だよ。」
「とりあえず、リンにもこの協力関係は説明するとして、今僕たちにできることは何かあるだろうか。」
「あのさ、ウチもう少しソウちゃんに詳しく話聞きたいな。危機は誰にどんな形で迫るのか、見えたイメージをもうちょっと教えてもらえない?」
「あ、うん。えっと、まず私に見えるのはボヤけた映像のようなイメージ。で、誰なのかという点はさっきも言った通り、その人の視点になってしまうからわからない。誰でもあり得る、成り立ってしまう。どんな形かと言うとよくわからないけど、とにかく暗いの。それで深い海の底に沈むような。目を閉じるような。」
「なるほど。たしかにわからない。じゃあさ、ちょっと考え方を変えて、ケンイチ先輩の時はどう見えた?今の描写だと、夜の水の中に落ちていくような印象受けたけど、それとは違う?」
「そのケンイチという先輩の時も近かったんだけど、そっちはもっとこう、冷たさが強いというか、孤独感もあって、うーん、だから少し違う気はする。あと、確定的になるか、近い未来なのか、どちらかだと思うんだけど、そうなればなるほどイメージが明確になっていくの。その先輩の時のイメージはもっと明確で、私は川の欄干から落ちて水の中に沈んでいった。暗くて、冷たくて、でもなんていうのかな、そんなことはわかってて受け入れてるような。」
「イメージが明確だったからもう手遅れだと思ったわけか。なるほどね。それじゃあその過去にも体験した感覚的には、次の誰かの危機が訪れるまであとどれぐらいの時間がありそう?」
「うーん、あまり正確なところはわからないんだけど、イメージは2〜3日、かなあ。」