Grim Saga Project

幸福キャンパス 018

 
 
 
ケンイチの行方不明から三日目。
ナナミから送られて来たメッセージには、まるで決闘でも申し込まれたかのような、今日の17時に看護棟D研究室にて待つ、という不思議な一文だけが書かれていた。
プラスなのかマイナスなのかも予想のつかない予定というのは珍しい。

とりあえず言われた通りの場所に向かった。
果たし合いのようだと感じたことが一因なのかはよくわからないけれど、リンにもミアにも誰にも言わずに来てしまった。
どういう心境なのか、自分でよくわからない。

失礼します、と一応ささやかに一言添えると、そこには女性が四人いた。
ユウカ、ナナミ、ソノハ、あと一人は見たことがない。



「さて、じゃあ昔話は一旦中断ね。シュン先輩、呼び出しちゃってすみません。まずはこの子、紹介しますね。アタシたちの大親友。ソウ。」

「へえ。はじめまして。ソウさん。H大の二年、シュンです。彼女たちとはサークルで知り合いました。まだそんなに交流ないから、お互いによくわかっていないけれど。」

「はじめまして。シュン先輩。ソウと言います。今日はユウカたちにお願いして連れてきてもらったの。どうしてもお会いしておかなければいけなくて。」

「僕と?どうして?」

「早く動かないと誰かの命が危険に晒されるから。」

「ケンイチ先輩?」

「いえ、その辺りの話、ユウカたちに聞きました。でも危険が及ぶのは、その先輩ではないと思う。もっと言えばおそらく、その方はもう残念ながらすでに。」

「ちょっと待って。なんで君にそんなことがわかるんだい?」

「器が教えてくれたから。」



なんだって?
と言ったつもりだった。
が、多分あまりに驚いてしまって声にならなかった。
内容もさることながら、いきなり器と言われて面食らってしまった。

一瞬で色々な思考が脳内を駆け巡る。
器。
グリムの器。
籠様。
ユメカゴ。
リン。
ミア。



「君はもしかして、…マスタ?」

「マスタ?…ああ、器の所持者、能力者のことね。えっと、私の器は自律型というか、私の意思とは別に独立して、自分で考えて動くようなので、私がマスタと言えるかどうかわかりませんが、とにかく器に導かれてあなたに会いに来たことには間違いはないわ。」

「なるほど。何をどこまで君の器が見たかわからないけれど、僕は残念ながらマスタではないよ。」

「あれ?」

「うん。僕は器を所持していない。」

「じゃあシュン先輩が持つ能力は一体?」

「君の器からは、僕はマスタに見えた?」

「うーん、そういえば、仲間がいるから会いに行け、とだけ。」

「ふうん。たしかに君の器が示した通り、僕には能力があるけれど、それが器の力に依るものなのかどうかわからない、というのがホントのところなんだよね。いや、そんなことより、ケンイチ先輩はもう手遅れだって?」

「はい。警察に連絡しようか迷ったんだけど、何の関係もない私がそんなことをしたら疑われかねないので、連絡はしなかった。」

「場所はわかるの?」

「ええ。大体。三日前にみなさんがサークルで飲みに行った帰りに、川に身を投げたのだと思う。」

「つまり、自殺?」

「そうみたい。」

「なぜ…。」

「私の器は、未来を見る力を持っているようなの。以前にも一度、ユウカもナナミもソノハもみんな巻き込んで大事件が起きたことがあって。でもその未来は、私以外の視点で断片的に伝えられてくるから、すぐにはなんだかわからない。今回も何かとても危険なことが起ころうとしているのはわかったんだけど、すぐには誰のことだかわからなくてその先輩は多分手遅れになってしまった。」

「その未来を見たのはいつ?」

「三日前の夜。」

「本当に投身したとしたら、その直前になるのかな。」

「おそらく、身を投げる数時間前なのだと思う。」