幸福キャンパス 017
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暗く冷たい。
苦しい。
何も見えない。
欲望。
邪悪。
薬。
女性。
友人。
色々なものが見えたが、何も見たくない。
見たくないのに、何も見えないはずなのに、目を瞑っても視界に入る感覚。
網膜にでも焼き付いたのだろうか。
早く伝えなきゃ。
助けなきゃ。
これ以上、苦しむ人を増やしてはいけない。
また、意識が別の場所にあったことを認識しつつ、うなされている自覚があるまま覚醒する。
ああ、夕華。
ダメ、このままじゃまた危機が迫る。
スマホを手にした。
自分の手がとても冷たいのがわかる。
約束の時間よりだいぶ早いけれど、そんなことはどうでもいい。
早く、一刻も早く夕華と会って話をしなければ。
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「やっほー。元気ー?」
「元気ー?じゃないよ。見ての通り、私は元気!それどころじゃないって。何か起きてるでしょ!?」
「あれ?どうして…、あ、また見えたんだ。うん、そうなんだ。ちょうど良かった。何が見えてるの?何が起こってるの?」
「それは私が聞いてるんだって…。ちょっと、とにかくわかること全部教えて。早くしないと間に合わなくなるかもしれない。」
「間に合わなくなるとどうなる?」
「助けられるかもしれない人が助からなくなる、と思う。」
夕華から聞いたこれまでの経緯で、大体わかった。
ハッピーキャンパスライフという怪しいサークル。
胡散臭い三人の先輩。
疑っていたら味方のようだったまた別の先輩と同級生たち。
謎の睡眠現象連続発生。
行方不明になった先輩。
夕華たち三人とは別にもう一人いた高校の同級生。
ちょっと、…待って、とかろうじて声を振り絞る。
来た。
相棒は何かを伝えようとしている。
意識が飛ぶのは、今はマズイ。
が、今この情報を逃すわけには行かない。
咄嗟に、目の前のアイスコーヒーを倒さぬように、机に両肘をつき、頭を抱えて考えるような姿勢を取る。
私は今深く考えています、というジェスチャーのつもりだ。
大丈夫、わずかな時間のはずだ。
その後、昏倒・混濁せずに戻って来れればパーフェクトじゃないか。
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