幸福キャンパス 016
ミアとそのまま少し学内を歩く。
ユキとサオリも無事、ユウカたち三人も送り届けたから大丈夫、もちろんミアにもリンにも何もなかったのだから、今回は何も起きなかった。
ミアとの会話で、そう結論付けた。
しかし、そうではなかった。
マリオから、ちょっと話を聞きたいんだけど、というメッセージを受信したので会いに行くと、開口一番事件が語られた。
「ケンイチと連絡が取れない。大学にも来ていないようなんだ。何か知らないかい?」
当然何も知らないので、そう答えた。
酒を飲んだ翌日の、まだ午前中だ。
寝ているかもしれないし、風邪を引いたのかもしれない。
しかし、こんなことは長い付き合いの中で一度もなかったのだと強く言う。
過剰な心配ぶりだとは思ったが、そこまで言うなら何かあったのかもしれない。
もちろんカズマには確認済みらしい。
仮に本当に何かが起きたとして、どんな可能性があるだろうか、と考えた。
例えば、交通事故?
例えば、何かの事件に巻き込まれた?
いずれも可能性はゼロではないけれど、果たしてそんなことが。
何かが違う気がしてならない。
その後、翌日になっても翌々日になってもケンイチは音信不通、行方不明のままだった。
マリオの心配が、いよいよ本格的に正しかったと思わざるを得ない。
マリオはケンイチの住む自宅まで行ってみたが、親もまったく心当たりがないそうだ。
カズマとも会って話したが、先日ユキとサオリと飲んだ後に、店の前で別れて以来会っていないらしい。
ここまでの情報では、それがケンイチを見た最後ということになる。
ユキにもサオリにも改めて聞いてみたが、カズマの話と矛盾はなかった。
数日経っても行方がわからないということは、交通事故ではないだろう。
事件の線は消えないが何かに巻き込まれたとして、こうも情報が出て来ないものだろうか。
まったくもって、皆目見当がつかない。
そもそもケンイチの行方不明は、HCLが関係しているのだろうか。
無口なケンイチは交友関係も広くないらしく、ほとんどマリオとカズマ中心の付き合いだったと二人からも聞いた。
となると、その他の人間関係でもなさそうだ。
何か知らない情報があるか、見落としは必ずあるのだろう。
元より僕は、そんなにケンイチのことを知らない。
しかし改めて考えると、違和感は多いのだ。
ミアに始まり、ユウキとマリオは意識を失った。
マリオは異常にケンイチを心配した。
そしてこのケンイチの行方不明。
ほかに何か振り返るべきことは。
ユウキがHCLに加入したのはなぜか。
あとはなんだろう。
ケンイチと親しいマリオとカズマからもう少し話を聞くべきか。
または、これ以上深追いすべきでないのか。
うだつの上がらない数日を過ごした時、ナナミがメッセージを送ってきた。