幸福キャンパス 015
翌日の大学で、一通りの講義を聴き終えたあと、本当ならまた一週間ほど経ってからサークルのメンバーとは会うのだけど、気になって様子を見に行くことにした。
ユキとサオリはいつも通りだった。
「シュン先輩、災難でしたね。ユウキくん、あれからだいぶ起きなかったそうで。ミアちゃんに聞きました。」
「ああ。大丈夫。結局みんな無事帰れたから。二人も元気そうで良かった。」
「はい。そんなに飲み過ぎてもいないし、遅くもならなかったので、今朝も大丈夫でしたし。楽しかったですね。また行きましょう。」
「そうだね。ところでさ、あの後マリオ先輩から連絡があって、はぐれたんだって?」
「あ、そうなんです。私たちと先輩たち、最寄りの駅が近かったから、もう一杯だけ、って飲んでいくことにしたんですけど、そこで今度はマリオ先輩がつぶれちゃって。」
「え?つぶれるほど飲むような時間あったっけ?」
「すぐだったんですよ、飲み始めて。そしたら、カズマ先輩がここもよく来るから店員に言っておけば大丈夫だって。なんかそこも知り合いがお店にいるだとかで。」
「なるほど。ずいぶん短時間で飲んでつぶれて起きた気がするなあ。」
次に誰かいないかと校舎を回っていると、ミアを見つけた。
一人のようだ。
「ああ、シュン。ユキちゃんとサオリちゃん、無事やった。」
「うん。今ちょうど会ったよ。ミアからこっちの話も聞いたって。」
「なんか変よね?」
「うん。話の辻褄は合うから、誰かが嘘をついている、とかではない気がするけど。なんだろう。うーん。ミアの時のことも合わせると、ユウキくんにマリオ先輩、三人が意識を失っている。やっぱりこれが一番の違和感かな。」
「あー、そうかも。ユウキとマリオ先輩は立て続けだしなあ。」
「ミアの時はさ、もう少し詳しく聞くけど、HCLの勧誘を受けてたんだよね。何をしてて眠った?お酒飲んでたわけじゃないよね。時間も早かったし。」
「うん。お茶してただけ。ウチはアイスティ飲んでた。えーっと、あとなんだっけ。よく覚えてないんだよなあ。」
「お茶はどこで飲んでたの?」
「学食。」
「学食で眠ったの?」
「えっとー、違うな。そうじゃない。」
「あとさ、その時いたのは誰?」
「あの先輩たち三人。…で、あ、そうだ。まだここのこと詳しくないだろうから、案内するって言われて学食は出たんだ。」
「え?それで?」
「ちょっと待って。思い出す。うーん。あ、その時、マリオ先輩とケンイチ先輩はなんか用事あるとかで、また後で合流するって言って別れた。だから、カズマ先輩と二人になったんだ。うわあ、この人と二人はなんかやだなあ、って思ったのを覚えてる。」
「二人で学内を回りながら、…つまり、歩きながらは寝ないよね。どこで寝たの?」
「うーん、どこだったっけなあ。なんか色々見て回って教えてもらってたのはたしかなんだけど。」
「覚えてないのか。」
「うん。なんか途中からぼーっとしちゃって、案内耳に入らなかったし。」
「学内を回って案内を受けてる最中に何か食べた?」
「ううん。アイスティだけのはず。」
うーむ、どういうことだろう。
もちろん会話の中で、ミアは薬を盛られた可能性を考えていたが、今の話を聞くに何かがおかしい。
ミアが眠ってしまうようなシチュエーションでもないように思う。
いや、学食でお茶をしている時点で薬を盛ることは可能か。
遅効性なら。
にしても、そのメンツだとミアが薬を盛られたら、先輩たち三人、またはその中の誰かが犯人に確定する。
そんなことをするだろうか。