幸福キャンパス 013
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白昼夢。
高校生の頃のことを思い出していた。
なぜか最近多い。
色々あったけどあの頃は楽しかったし、きっと友人たちと毎日一緒にいるわけではなくなったことが関係しているだろうとは思ったけれど、なるべくそれは考えないようにしていた。
自ら選んだ道なのだし、会いたければ会える。
ユウキ!という、馬鹿でかい声に遠くから呼ばれた。
首から古いチェーンでぶら下げた、普段は動かない懐中時計を一度強く握りしめる。
一気に現実に引き戻されたので、時計は衣服の中に戻して立ち上がり、はーい!と元気よく返事をする。
なんとなく、今夜は夕華に連絡してみようと決めていた。
その後、なぜか何も手につかない。
なぜだろう。
一旦目の前のことを棚上げにして理由を考えることにした。
もう何年も前のことだったからピンと来なかっただけで、さっき見ていた白昼夢をもう少し鮮明に思い出す必要に駆られる。
そうか、メルポーション。
もしかしてまた夕華に危険が迫っているのかもしれない。
あの時の過ちを繰り返さないためにも、夜を待たずに連絡してみようと、即断した。
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夜の帝王、などというとドラマかマンガの世界の話のようだが、自分の親がまさにそんな表現を地で行くような立場の人間だ。
特に自分自身がそういう世界に携わって生きてきたわけではなくても、環境が知識を植え付ける。
レールを敷かれたわけではなくとも、自分も夜の世界に生きるのだろう、と漠然と考えていた。
そんな、ある意味既定路線の生き方を覆す出来事が高校生の頃に起きた。
結果、自分の生きる道を真剣に考えるに至り、今はデザインの勉強をしている。
かけがえのない相棒である懐中時計のことも、もっと知りたいと思っているが、そちらは手掛かりなし。
歴史や各時代の意匠を学ぶところから始めたというわけだ。
先ほど見た白昼夢の内容をもう少し思い出した。
そう、追い掛けても手に入れられないこの懐中時計が関係していることが一つ。
そして、夕華だけでなく、七海も園葉も巻き込む、まさにあの時と同じかそれ以上の危機が迫ろうとしているのかもしれない。
しかし、夢からはその危機が具体的にどんなものかまでは読み取れなかった。
身体の内側から込み上げるような、表しがたい恐怖と、突き動かされるような衝動。
メッセージで連絡した夕華からは軽い返事が返ってきたが、気になる内容があった。
「はいはーい。おひさー!元気してるー?こっちは七海も園葉も、もちろん私も元気だよーん。なんかさ、ちょっと気になるもの発見しちゃったから、今調べ中。また改めて話すよ。近々ご飯でもどうだい?あ、でもデザイナーの卵ちゃんは忙しいかなあ。」
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