幸福キャンパス 011
ミアが心配そうにしていたが、ユウキはすうすうと寝ている。
疲れてしまったのか、はたまた慣れない場やアルコールに当てられたのか。
奥のテーブルからリンとソノハが、ミアとユウキの元に寄って来た。
「ミアさん、ユウキくん、大丈夫?」
「わかんない。なんか急に眠いって。でも最近忙しいって話してたから、疲れてたんかな。」
「それならいいけど…。ナナミ、ちょっと一応、ユウキくん見て。」
「ナナミさんってこういうの強いんですか?」
「あ、いえ、両親が医療関係なのと、私も今看護学科で学んでいるところというだけなので大したことはできません。でも、これは、…ずいぶん深く眠っているね。病気とかではなさそうだけど。」
ナナミは慣れた手つきで、突っ伏したユウキの顔を横に向かせて片方の目を開かせて覗き込み言った。
おそらく、僕はよくわからないけど、瞳孔の開き方を見たのではないかと思う。
そのあとをマリオが紡いで言う。
「なんともないのなら良かった。驚いたな。まだそんなにみんな飲んでないと思ったけど。ここらでお開きにしようか。ああ、彼は俺が見てるからみんな解散していいよ。目の前に居たのに気付かなくて悪かった。」
「あ、先輩、それならアタシたちが見てるからいいですよ。ナナミとソノハとアタシ、ユウキと同じ高校から来たから少し知ってるし安心でしょ。先輩たちはお気になさらずにどうぞ。」
「どうする?マリオ。たしかにみんなでここに残る必要もないかもしれないし、ナナミちゃんの見立て通りただ眠ってるだけなら、少し休ませてから起こして帰りゃいい。」
「んー、そうだな。みんないなくても良さそうだね。でもユウカちゃんたちもいいよ、あまり遅くなると良くない。ここは俺たちが見ておく。」
「あ、それならアタシたちは大丈夫です。ナナミもソノハもアタシと同じ寮に入ってて、ここから歩いてそんなに遠くないし。ほかの方々、まだ余裕あると思うけど電車の人も多いでしょう?深く眠ってるってことなので、そろそろ行かれた方が良いと思います。すぐ起きないかもしれないし。あ、でも先輩、会費の回収と精算だけお願いしてもいいですか?」
「うーん、そこまで言うなら。わかった。じゃあみんなすまないけど、支払いを済ませて解散にしようか。」
ということで、ユウキの分だけ先輩たちが立て替えて、精算を済ませる。
先輩たちと、ユキとサオリが店を出た。
カズマは店の人間と知り合いらしく、何やら声を掛けて出て行った。
男性が誰もいないわけにはいかないだろう、ってことで僕が残ることにした。
何かが少し引っ掛かったから、そういう言い方をして残った、と言ってもいい。
そうすると、やはりリンとミアももう少しいるという。
結局僕ら三人と新入生四人がまだ店にいるこので、半数以上がここに残っていることになる。
「ユキちゃんとサオリちゃんだけ先輩たちと帰しちゃって平気かな?」
「あ、リンちゃんもやっぱそう思った?」
「え、どういうこと?ミアさんとリンさん、それどういう意味?」
「あ、ごめんね。こっちの話だったんやけど。んー、ま、いっか。ちょっとね、あの先輩ら、なんか怪しくないかな、と思って。あ、えーっと、この話って先輩たちに言わないでほしいんやけど。」
「わかりました、ミアさん。それじゃ詳しく聞かせてくれるなら、ってことで。」
「あらら、ナナミさん、話わかるなあ。もう一杯飲みながら話す?ふふふー。」
「いやいや、こらこらミア。もう会計済ませたってば。」
「あー、そうやったー!」
という流れがあったが、店員を呼んで事情を説明したら快く再オーダーOKと言ってもらえてしまった。
カズマの顔が効いたのだろうか。
正直眠っているユウキと僕以外、五人もの女性を相手に、さらにアルコールが入るのはどうかと思ったが、これはもう手遅れな気がする。