幸福キャンパス 008
ただでさえ掴み所のない状況に、リンやミアのアルコール耐性も不明。
これはなかなか難しいミッションになりそうだな、と感じていた。
滞りなく店に人が集まったらしく、先輩方、僕、ミア、ユキ、サオリの面識あるメンバーに加えて、例の新入生たち男性一名と女性三名もいる。
これが現状のHCLフルメンバーであり、今回はゲストでリンもいる。
なんと総勢12名。
さて、どのように振る舞おうか、と考えていると、マリオが立ち上がった。
全員の目の前には今来たばかりの各種アルコールが置いてある。
「さて、皆さま、本日は我がサークルHCL初のフルメンバー会ということで、懇親会を開催させていただいた次第でございます。長いキャンパスライフを充実したものにするためには、新たな人脈やその中での交遊、さらには遊びももちろんのこと、様々な側面から多くの人々との交流が必須であるとの考えのもと、ある意味限定的な主目的のない集まりに顔を出していただき、誠にありがとうございます。長い挨拶も無粋なので、まずは乾杯と行きましょう。それでは、これからのメンバーの新たな充実した生活を祈念して、…かんぱーい!」
いささか真面目な挨拶だが、思っていたよりはうまくまとめたな、と評価していた。
あまりアルコールを口にしないのもどうかと思うので、無理をしない程度に飲むことにした。
思いのほか、爽やかな苦味のファーストインパクトが悪くない。
ごくっ、と喉を鳴らしながら、ジョッキを傾けると3分の1程度も一気に飲んでしまった。
そういえば二度ほど姉と飲んだが、一度はまだ僕が未成年の頃であった。
もう一度は姉さんとその彼氏と三人だった。
二人は飲めるが、その時の経験上、僕は自分がそんなにお酒が強くないことを知っている。
このジョッキで言えば、二杯程度が関の山だろう。
あまりの参加人数の多さで四人卓三つに分かれて座っていたが、リンとミアは別の卓だ。
二人がどんな感じかも気になるが、そこまで余裕もないだろうし、せっかくだから僕は自分と同じテーブルの三名の性格をよく見てみようと思った。
一人はケンイチ。
もう一人はサオリ。
あとの一人は見覚えのない女性だった。
「あー、そうだそうだ、ちょっとみんないいかな。俺たちはみんなと面識あるけど、お互いに知らない人もいるだろうからさ、いきなりで悪いんだけど、それぞれ簡単に自己紹介しとこうよ。まず、俺ね。カズマです。このサークルの創立メンバーの一人で、さっきのマリオと、あとから挨拶するケンイチと腐れ縁。せっかくの縁だからさ、みんな気兼ねしないでなんでも相談してよ。さっきマリオが言った通り、まあ色々一緒に楽しみましょう。よろしくー!」
まさかの、いや、冷静かつ客観的には妥当だと思われる自己紹介が始まってしまった。
マリオは最初の挨拶で免除、次からはカズマのテーブルの人たちが自己紹介する流れになった。
しかし、たしかに名前も知らないんじゃ話しにくい。
腹を括って、何を話すか自分の番までに考えようと思いつつ、みんなの話をしっかり聞いてしまうもので、なかなか考えられない。
まあ、どうにかなるか、と諦めて残りのメンバーの話を聞くことにした。