幸福キャンパス 005
そんなミアの危機、いや、厳密に言えば彼女は一人で逃げられたが、あまりに危ない事件があった。
しかし、マリオとカズマの切り返しは意外だった。
「キミ、もしかして二年のシュン?」
「そうですけど何か?」
「ちょうど良かった。その子、ミアちゃんだっけ?どうしようかと思ってたんだ。んでさ、キミにも興味あったんだよね、噂になってるっしょ。」
「は?僕が?」
「そうそう。キミ、その子の彼氏?」
「ええ、まあ。」
その方が都合が良いと思って肯定しておいた。
隣を見た時のミアのなんとも言えない表情は印象的だったが、なんと表現して良いのやら。
こうして偽装恋人状態ができあがったのだ。
「あー、そりゃ良かった。彼女お茶して話をしてるうちに眠っちゃったからさ。ここで寝かしてたんだよね。覚えてる?」
「あ、はあ、お話してた途中までは。」
「良かったね、彼氏が迎えに来てくれて。」
「ええ、ここがどこなのかわからずに不安だったのでホッとしました。」
「ところでさ、君みたいな成績優秀かつイケメンが一緒に活動してくれるととても助かるんだよね、何もサークルやってないならたまにでいいからどうかな?」
「うーん、ちょっと忙しいんですけど、彼女とも相談しておきますよ。」
「頼む。」
という謎の経緯があった。
サークル名称からしてそうだけど、本当に理解ができない。
表面上、僕の恋人であるミアになんらかの危害を加えようとしておいて、僕をサークルに勧誘するというのはどういう神経だろう。
未遂となった事件を隠蔽するための誤魔化しで、適当に言ったのだろうか。
どちらにせよ、僕とミアの関係がウソである以上、彼女の繋がりで事前に調べていたから僕のことを事前に知っていたという線はないわけで、僕のことを先輩たちが知っていた事実は気味が悪い。
そんなに目立つことをした覚えはない。
そして、彼らは鍵を掛けてミアを幽閉していた事実をなかったことにして話した。
鍵を開けて入ってきたし、全員で部屋を出た後、彼らは当然のように鍵を掛けたのだ。
それは当然、自分たちが閉じ込めた事実を認めることになるのだけれど、中に僕がいたことで誰かが解錠したことにしたつもりだったのだろうか。
頭が良いのか悪いのか掴みきれないが、少なくとも僕の印象では、やはり何も考えていない、または深く考えていない、だ。
そして、僕はその後ミアと相談した上で、サークルに在籍することにした。
表向きは、勉強や課題で困った時は先輩に聞けた方がいいだろうから、というおよそ無意味な理由だ。
実際はつまり、ミアへの未遂事件を受けて、他の被害者が出る前に彼らの行いや悪業の証拠を掴み、やめさせることにあった。
しかし、僕がいることで女性の新入生の入部率が高まってしまったら、本末転倒な気はするが、一時的に負うリスクとしては許容範囲で被害者さえ出さなければ良いと結論付けた。
そして今に至るわけだ。
そういえばもう一つ、無駄に僕とミアの偽装交際を知る人が増えても誰も得をしないので、内密に、とマリオとカズマには伝えたのだが、一体どれだけの効力が認められるものかについては不明である。