Grim Saga Project

幸福キャンパス 003

 
 
 
中身がないと表現したが、要はつまらないだけで、まったくないわけではない。
この集まりが何をするサークルなのかをしきりに説明していたのだ。
それがまた、様々な言葉で語られる割に、やはり中身がない。
と繰り返すと語彙が少ないな、と感じて思い直す。
なにを言わんとしているかわからない、またはわかりづらい話、と言えばいいだろうか。

時には共に勉学について協力し合い、課題や論文について議論し、遊びにも行き、運動をして、キャンパスライフを満喫するためのサークルなのだと言いたいようだ。
変に学力が低いわけではないために、小難しい、または小賢しい言い回しが時折使われる。
大事なのは手段ではなくて目的なんだ、とかなんとか。

言い方を変えればみんな仲良く色々やろうぜ、というなんともハッキリしない内容だ。
この数ヶ月、新入生を勧誘してはこのような場で似たような説明を何度か聞かされている僕は、とても時間を無駄にしているように感じてしまう。



「ユキ、私今日はそろそろ行かなくちゃ。」

「あ、そうだっけ。サオリ、バイトだもんね。先輩方ごめんなさい、今日はこの辺で失礼します。ミア先輩、来てくださった直後にすみません、また改めて。」

「ああ、いやいや、サオリちゃんにユキちゃん、そんじゃサークルのことは考えておいてよ、いつでも歓迎だから。それと、ミアちゃんはね、君たちと同学年、この春からの一年生だから先輩じゃないよ。」



はーい、とにこやかに笑みを浮かべたのは喜怒哀楽の変化が比較的大きいように見えるユキと呼ばれた後輩だ。
もう一人の冷静なサオリは、立ち上がると穏やかな顔で丁寧に頭を下げた。
二人がドリンクバー代を出そうとしたところを、カズマがまあまあと制する。
それぐらいは払うつもりということのようだ。

二人が出て行った直後にミアに腕を組まれて、私たちも行こう、ということだったので僕は二人分の代金を机に置いて、ファミレスを出た。
カズマはこの代金をしっかり受け取った。



「シュン、どうなん?ていうかごめんね、なんかどうでもいいことに貴重な時間を割かせてて。なんっかこうイライラ来るよね、あの人ら。」

「そうだね。僕の時間のことはいいけど、なかなか尻尾を出さないし、早く片付けてしまいたい気持ちはあるけど、被害者が出ないようにすることが最優先だと思う。」

「だね。…リンちゃんは?」

「そうだなあ。事件の直後に比べたらだいぶ普段通りに戻ったかな。でも、やっぱり支えて行きたい気持ちは変わらないし、まだ心配。」

「うわあ、なんかごちそうさま。シュンとリンちゃんがそんな風になるとは思わなかったなあ。」

「うん、僕もまったくの予想外。たまに大学にも遊びに来るから、ミアもそのうち会えるよ。」

「それ、シュンに会いに来てるんじゃん。それはさすがに邪魔できないけど、なら早くこの偽装カップル状態どうにかしなきゃだね。」

「説明してあるから大丈夫だとは思うけど。」

「リンちゃんが平気でもサークルの子らには良くないんじゃない?まあ、リンちゃんも気分良くはないよね、これは…。」

「どうするのが一番良いか判断するためにも、どこまで悪質か見極めないといけない。」

「うん。シュンはマジメやんなあ。別にどうでもいいことかもしれんのに。」

「でも、ミアは危なかった。放ってはおけないよ。」