Grim Saga Project

17-58. 2XXX.0XH06

 
 
 
 「ふむ。お前がドラゴンか。名は…、桐生竜矢。」
 
 「これは…驚いた。貴女はピネではなく、器の化身なのか?」
 
 「いかにも、と言いたいところだが、厳密には異なる。些細なことね。その理解で構わないわ。」
 
 「これが能力なのか。」
 
 「いや、そうではない。これはそうだな、遊びみたいなもの。依代があった方がコミュニケーションを取りやすいから、この子の身体を借りているの。相性の問題もあるけど適合していたのでね。」
 
 「ああ、ドラゴン。ちょっと待って。色々聞きたいとは思うんだけど、手順を踏もう。ピネのコレは言わば占いモードなんだ。料金を前払いして一時間、好きなことをいくつでも占ってもらう。合ってるかな。」
 
 「ふふ。この状況で律儀ね。そうしてもらえるとありがたいな。ドラゴンとやら、どうする?」
 
 「ああ、もちろん今この場で済ませるさ。…さて、これである意味俺は一時間自由に会話をする権利を得たのかな。」
 
 「いいえ。この一時間は会話ではなく、占いのお時間です。」
 
 「なるほど。それでは、俺がグリムの器を手にすることができるのはいつか、占ってもらおうか。」
 
 「いいでしょう。…ふむ。定義が曖昧だわ。ある意味先ほど手にしているしね。まあ、いいか、うん。短期的に、貴方が望む意味での入手は難しそうね。」
 
 「そうか。それでは入手するためにやるべきこと、やれることはあるかい?」
 
 「占いの主旨から外れ掛けているわね。初回サービスとでもしておきましょう。一番本質的なのは欲しないこと。」
 
 「そうか。貴女のようにグリムの器は心を持つ。女性のようだな。追いかけると逃げるのか。」
 
 「比喩が正しいかどうかは微妙ね。でも少なくとも一例として、私はあからさまに力を欲している者に力を貸すようなことはしない。」
 
 「参考になったよ。だが、うまいこと諦めろと言い包められている気もするね。欲せずに手にするためにはどうするか、か。んー、それではこの渇きを潤すためのピースは近いうちに見つかるかどうか、という占いならどうだろう。」
 
 「また曖昧ね。占う対象の輪郭が明確でないと、占った結果はよりぼやけるの。このまま続けていいかしら?」
 
 「ああ、ぼやけた結果を聞いて、より絞り込んだ対象にできるかどうかを考えさせてもらいたい。」
 
 「ええ、それならこちらはまったく問題ない。んー、見えづらいな…。どうにでも変容する可能性がありそう。そうね。見えている風景から、助言ができるとすれば。貴方が見ている景色はとても視野が狭い。貴方今自分が何でもできると思っているわ。でももちろん現実はそうではない。いくらでも貴方の欲する刺激はそこかしこに存在する。」
 
 「はは。なるほどたしかに。だが、魅力を感じない対象で刺激を受けることを望んでいるわけではないのでね。グリムの器以外に俺の渇きを潤すことができるものがあるだろうか。」
 
 「占いの対象ではなさそうだから雑談に付き合うだけだし、繰り返しになるけれど。貴方が見てる世界はとても狭い。」
 
 「それはつまり現代の常識に捉われないような存在がほかにもある、と?」
 
 「グリムの器が存在するのに、それ以外の常識の範疇外のものが何もないと判断する方が認識としては弱いのでは?」
 
 「ふふ。それもそうか。」