15-48. An eye for an eye
黒スーツはあの会話の後、失礼する、と言って立ち去った。
まあ、つまりハッタリは一定の効果を生んだと思って良いだろう。
ピネも、私たちも例の宝剣がグリムの器である確証は得ている。
私は嘘を吐いた。
グリムの器である確証だって得られる。
外から見ただけではわからなくても、マスタとなった本人には少なくともわかる。
彼らもそれは知っていただろうけれど、咄嗟のブラフ返しはうまくハマったようだ。
しかし、グリムの器というのは一体何なのだろう。
私にとっては友人のようだった。
ピネのそれはまるで神のようだ。
セツナとリンの器はどうなのだろう。
何のために存在していて、何を成し、どうやったらその命または心は失われるのだろう。
私の友人のようだったあの万年筆が未来視をできるのだとしたら、やはり多くの人間にとっては手に余る代物だと思う。
命の長さも知能も知識量も、少なくとも友人のようであったあの器でさえ、グリムの器は人間より遥か上位の存在であると思える。
その存在は、一つや二つではないという。
事実なら、人間に取って代わって、世界の主たる存在になることだって容易なのではないのだろうか。
なぜそうしない、またはならないのだろう。
ふとした思考はいつしかとめどないものとなっていた。
それはきっと、彼らがそんな些末な支配を望んでいるわけではないからである、とそんな風に思うと同時に、隣で私を呼ぶ声に気付く。
セツナとリンが何度か声を掛けてくれていたらしい。
意識が現実に引き戻される。
一旦は刺客を追い払うことができたが、こんな程度で諦めはしないだろう。
次こそはもっと強硬手段に打って出る可能性だってあると思う。
しかし、仮にピネの器をグリムの器ですと言って手渡したところで、器たちは自らの意思で何らかの理由でマスタを選択しているように感じる。
第三者が無理に入手したところで何の効力も発揮しないだろう。
いや、それでも人間は希少な価値に呪われた生き物だ。
それでも欲する者は後を絶たないのかもしれない。
悪用されるような心配は不要かもしれないが、ピネの身の危険は去ったわけではない。