15-47. Bluffing
「すまないけれど、そのまま座ってくれないかな?私たちに何かを聞きに来たようだから、今度は私たちの質問に答えてもらいたい。」
「おや、少し長居し過ぎたかな。」
「それじゃあ、僕はコーヒーでも買ってこようか。凛、カナメ、ピネ、何がいい?スーツの紳士もご希望があれば。ここはご馳走しますよ。」
「ほう。ここで立ち去ったら逃げるようで良い気持ちはしないからね。質問には答えるとするよ。そんなに年上に気を遣う必要はないさ。私は飲み物は不要だ。君たちの質問に答えたら、すぐに行くとしよう。」
「セツナ、それじゃあ私はアイスティを。」
「んー、私はアイスカフェオレ。走ったら汗かいちゃったよ…。ピネさん、何か飲みますか?」
「え、あ、うん、ありがとう。じゃあ、ホットココア。」
「了解。」
黒スーツがおとなしく椅子に掛け直し、私たちは隣の空いていた机に三人で陣取った。
セツナとリンはやはり落ち着いている。
リンが座ったままのピネに歩み寄ると短くハグをした。
まるで海外の映画で見る挨拶のようで、その一瞬が妙に脳裏に焼き付く。
リンの気持ちを察したから、私はピネに席を代わろうと提案したが、ピネは首を横に振った。
今ここにいるピネは、私の、私たちの知るピネのはずだ。
例の神が憑依している状態ではおそらくない。
だから今の大丈夫だという意思表示は、小さなことなのかもしれないけれど、私にはとてつもなく大きな出来事に思えた。
これが成長というものなのか、はたまた私がそれほどピネの芯の強さをわかっていなかったのか。
セツナが四人分の飲み物を持ってきてくれた。
さて、まずはピネの無事を確認できた。
この男と、私たちの元にそれぞれ来訪者があったことは、セツナとリンにも確認していたので、少なくともグリムの器を狙う組織から4人が出て来たことになる。
可能な限り、彼らの素性を探り、その目的を明らかにしておくことができた方が良いと考える。
そこまではセツナたちと口裏を合わせたわけではないけれど、あまりにも私が方向性を誤るなら二人は何らかサポートしてくれるだろう。
「わざわざ私たち四人を同時に訪問するなんてね。ずいぶん手が込んだことをしたものだなと思うよ。それができるということは、事前に相当私たちのことを調べている。そこまでするからには理由があると考えるのが当然だよね。さて、私のところにも貴方に似たような黒スーツの男が来たんだ。ご丁寧にほとんど知られていないはずの本名まで呼んでね。だから.&の会がグリムの器を手に入れるために動いたんだと推測している。さて、貴方たちはどうしてピネがグリムの器を持っていると決めつけた?真相が異なる可能性もまだ十分にあるはずだろう。少なくともグリムの器を特定する手段はないはずだ。」
「はは、これは驚いた。まるで何もかもお見通しだと言わんばかりだな。だが、もう私はすでに根室雛さんの持つ宝剣がグリムの器であることは確信している。証拠を出すわけにはいかないがね。」
「何をもってそうだと確信しているかは言えないということか。それは困ったね。ピネ、何を聞かれた?」
「え、あの、えっと…、協力して欲しい、って言われて…。断っていたら、出直すって。」
「私は断られた認識ではないよ。今日のところは、交渉がまとまらなかった。だが君たちとこうして会話ができたことが十分な収穫だった。」
「まさか。貴方の言う証拠というのは、ピネと会話して得た確証か。なるほど。…ふう。それは仕方ないね。ピネ、こちらの紳士はグリムの器を持っていることが周知の事実のように会話してきただろう?それをピネが明確に否定しなかった。だから、確信を持っている、と言っているんだ。」
「え、そんな…。」
「私たちはグリムの器のことを知っているというのは前回の会で会話した。もちろんそれはこの組織の人々の耳にも入っているだろう。だが、ピネと会話しなきゃわからなかったんだ。グリムの器の確認はできないからね。それぞれを個別に訪ねてきたのも同じ理由さ。誰か一人でもそれを認めるような受け答えをしたら、それを確証にしようとしていたから、まとめて訪問するわけには行かなかったんだ。その場でうまく否定されたら、残りの誰かから話を聞く機会を失うからね。だから同時に、そして個別に話を聞きに来た。」
「はは。姪浜さん、貴女は頭がいい。だが手遅れだ。もう私たちは確証を得た。」
「果たしてホントにそうかな。ピネはこういう子だ。貴方の決めつけたような言い方に抗えないまま協力するかどうかだけ会話していただけだと私は思うよ。その証拠に私たち三人から話を聞いたお仲間にも聞いてみるといい。誰もピネがグリムの器を持っているような言い回しのブラフに乗っていなかっただろう?」
「馬鹿な。彼女は、明らかに自分がグリムの器を持っている前提の発言をしていた。持っていないなら迷うような言い方すらしない。」
「まだわからないのかい?彼女は自分がグリムの器を持っているかどうかに明確な返答をしていないだろう?あくまでも貴方の決めつけだ。ピネは、自分が知っていることを教える時間を取るかどうかで返答を保留していた。ついでにもう一つ。なぜそうなのか、ということも伝えようか。なぜなら、先ほども伝えた通り、グリムの器がどうか確認する方法がないから、私たちにもわからないんだよ。ちょうどそれを私たちも調べていたところなんだ。」
「なんだと…。」