13-45. Answer and Sweep
ついに黒幕が動き出した。
僕にはそう感じられた。
黒いスーツの男が淡々とした口調で、グリムの器のことを尋ねてきた。
やむを得ず、近所のコーヒーショップに男を招き話を聞く。
単刀直入に、ピネの器について知っていることを洗いざらい話せ、という内容だった。
直感的に罠だと思った。
そして、ピネに危険が及ぶ、とも。
男は断定的に話したが、受け入れてはいけない。
彼女が占いに使う剣がグリムの器であるとどういう根拠で言っていますか?
また、それについて話せとか、手に入れたいというのであれば、貴方の態度はそれにまったく相応しくない。
失礼します。
僕は高圧的かつ横暴な態度に腹を立てたフリをして、代金を机に叩きつけて場を辞した。
†
姪浜カナというのが私の本名だが、その名を知って呼び掛けて来るような相手に心当たりがなかった。
それだけで嫌な予感がするというものだ。
黒スーツというのはそれだけで異質。
それ自体にも威嚇的な意味を持つと感じる。
おそらく実際にそういう意図なのだろう。
しかし、予想よりは遥かに柔和な話し方であった。
私が女性だから物腰柔らかな対応を選択したのだろうか。
威圧的な風体に焦らずに考えれば、私が一人の時を狙って来たことや本名を呼んだことから大体の想像がつく。
男の話を聞いて、それは確証に変わった。
ピネの持つ剣をグリムの器であると断定した言い方をして話を進めてきたからだ。
セツナ、リンとも会話していたことでグリムの器を断定することは外部からではほぼできないことがわかっていたので、十中八九これはブラフだ。
このブラフを仕掛けて、私たちの内の誰か一人でもこの話に騙されてしまえば、実際にピネの器に確証を持てる、という作戦だ。
セツナとリンは大丈夫。
場慣れしている。
ピネにも神がついている。
しかし、急に心配になった。
器の確証が取れた場合、入手に踏み切るだろうが、ここで確証を得られなかった場合、どうなるだろう。
自分たちで確証を得るために結局ピネには危険が及ぶのではないか。
私にできることはあるだろうか。
仮にピネを守るためにセツナやリンが器の力を使ってしまっても良くない。
これは意外と難しい局面なのではないかと思い始めた。
とりあえず黒スーツとの無意味な会話を適当に退けて、ピネに連絡を取り合流を図ることにした。