Grim Saga Project

12-43. Information Exchange

 
 
 
 しかし、男の訴えは私の持つ器を譲って欲しいとかそういうことではなく、知っていることをすべて教えてほしい、協力してほしい、という主旨であった。
 つまり、私がマスタであることを知らない。
 知っていたら、こんなに友好的かつ穏便な方法でなくても良いはずだと思う。
 
 単純に話を聞きに来ただけ、ということになる。
 なんらかの確証を得たわけではないなら、何のきっかけでこのタイミングだったのだろう。
 そこが不可解だ。
 何か狙いがあるのではないかと穿つ。
 
 私が、このスーツの男相手に伝えてはいけないことは何か。
 できることは何か。
 瞬に迷惑をかけないためにできることは何か。
 瞬の力になれる方法は何か。
 
 なんとなくイヤな予感がした。
 今のところ私はグリムの器のことを知っている前提で話していること以外、知らぬ存ぜぬで通してる。
 つまり何も話していない。
 それはそれで守り過ぎ、危ない感覚だ。
 伝えても大丈夫な範囲で情報を出さないと、知らな過ぎるフリは逆に怪しい印象を与える。
 
 そこで私はグリムの器について本当に知っているのかを尋ねることにした。
 情報の交換と照合。
 私が知っている情報を提供していく代わりに、相手からも提供してもらう。
 知らない情報があれば得だし、なくても真実に近づけさせないだけで、結果的にはプラスなのではないかと思う。
 
 私はグリムの器のことを知っている人間が相手であれば、特に秘匿しなければいけないような情報は持っていないと思います。
 ですが、少しずつ情報を交換することで、お互いにどの程度グリムの器のことを知っているか計りませんか?
 
 男はなるほどと言うと同時に頷いた。
 私から情報を引き出せると思ったのだろうか。
 のっぺりとした顔に少し穏やかな笑みが浮かんだが、安心する感覚と同時に警戒感もぐっと上がった。