12-42. Descent
なるほど。
それで私のところにも来たのね。
瞬、カナメさん、ピネさん。
この三人と並んでグリムの器のことを知るであろう最重要人物の一人と見なされた、というわけだ。
私の前に現れた黒スーツの男の話を聞いて、そう判断した。
ちょっとお時間いただけますか、という問いに承諾。
買い物をした荷物を持っていて、早く冷蔵庫に入れたいので手短にお願いできますか、と答えたのはただの本音だった。
年齢的には三十代前半ぐらいだろうか。
のっぺりとしていてあまり特徴ははっきりしない顔立ち。
そんなに威圧感があるタイプではないように思うが、必死さ・真剣さのような雰囲気は感じた。
なんとなく、初見から.&を想起したのだけれど、その直感は間違っていなかった。
いや、直感ではないか。
ずっと気になっていただけのことだ。
怖くはなかった。
その印象の通り、彼は一生懸命説明をしたが、無理強いをしたり、犯罪紛いの手立てに打って出るような様子ではなかった。
私はある意味ハメられたのかもしれない。
グリムの器のことをそもそも知らないフリをすることもできただろうか。
彼がグリムの器については既知の事実として話したことに対して、私は反応を試されたのかなと直後に思った。
しかしよくよく考えると、瞬たちが.&の会ですでにグリムの器については会話していたから、私は知っていてもおかしくない。
どこからどこまでを隠すかだ。
まだ失敗していない。
ただ関わりとしては、会に直接所属していない私は一番薄いはず。
会で具体的な話に及ばなかったから私を狙ってきた?
いや、それなら具体的な話に踏み込めばいいし、三人に聞いた方が確度が高い。
ということは、私のところにまで来たということは、三人のところにも刺客が訪れていると考えるのが自然だろう。
つい先日の会でグリムの器への言及があったことは瞬から聞いていた。
その辺りの話の流れから、私たちがグリムの器の近くにいると断定するなんらかの判断があったのだろう。
このスーツの男はつまり本部側の人間ということになる。
男は本当に可哀想になるぐらい一生懸命だった。
グリムの器を手に入れられないと、生活ができなくなる、と訴えた。
下手な強硬手段で来られるよりもむしろ一番揺らぐかもしれない。
私がグリムの器の持ち主であることを彼が知り得るだろうか。
知り得る。
カナメさんに伝えたのは例のハンバーグ&ステーキの店で、あそこにも誰かがいたとしたら私は密かに手の平から炎を発していて、それを見られた可能性だ。
私の存在を認識しているということは、三人と私が一緒にいる場を見られている。
私をマスタとして認識しているケース、マスタとしては認識していないが器の近くにいる人間として認識しているケース。
どちらもあり得る。