11-40. God Only Speaks
私は喋るのが苦手だ。
頭の中ではたくさんの言葉が駆け巡っているのだけれど、それをアウトプットするのがどうも下手らしい。
実際に発声しようとすると、うまく言葉が出てこない。
色々と改善方法を調べたり試したりしたけれど、結果あまり変わらなかった。
周囲には理解を示してくれる人がいないわけではなかったが、どもったり口籠ったりするのが申し訳なくて人付き合いを避けるようになってしまった。
慣れてくると、たくさんの人とコミュニケーションを取らない生き方もそれほど不便ではなく、必要最低限の会話の場合はある程度心構えや話す内容をあらかじめ考えておくことで対応できる。
だから、友達がいないわけではなかったけど、最近カナメやセツナと会話することが楽しくて驚いている。
私の喋る下手くそさもまったく気にしていないし、疎む素振りすらない。
受け入れてくれるというか、そもそも私のこの特性を障害として認識していないようなのだ。
気は遣ってくれているのかもしれないけれど、特別視するわけでも、同情するような接し方でもないから、私自身が治さなければいけない感覚に苛まれることもなく、むしろ自分が喋ることが苦手であることを忘れて話してしまうほどだ。
心地が良い。
ありがたい。
嬉しい。
どきどきする。
久しぶり…というより、もしかすると初めて私は自分のことがイヤではないかもしれない。
だから、もっと私のことを知ってもらいたいなと思っているところに、グリムの器の話になった。
そんなもの私は知らなかったが聞けば聞くほど、思い当たることがあった。
ひょんなことから私を支えてくれる存在となった神さまのことだ。
私の身体を使って占い師の仕事をしてくれるようになってから、生活はとても楽になったし、夜な夜な私の悩みを聞いてくれた。
彼女は人間ではないと思う。
だから神さまなのだ。
頭の良さが尋常ではないし、知識の量も受け答えも、どうも人間の範疇にないように感じる。
そもそも、剣に宿る心が私と会話をして、私の身体を操ること自体がもう常識的な理解を超えている。
だから、カナメもセツナも凛もあの神さまとやり取りをしているのを見て驚いた。
多分あんな風に神さまと接することができる人はそんなに多くはいない。
なんて言うのが正確かわからないし、ロクに喋れもしない私が言えたことではないのだけれど、普通はあんな風に会話できない。
もっと神さまがつまらない会話になるイメージしかない。
でもだからこそ、カナメを、セツナを、神さまと会わせてもいいんじゃないか、もっと言えば会ってもらった方がいいんじゃないかと感じた。
実際三人について、神さまはとても興味を持ったようだし、まだどうなるかわからないけれど、私は良かったと思っている。