10-39. Meditation
次は自分か。
あえてそう思わせる言い方で、社員の皆には最後の機会を与えた。
逃げたい者は逃げれば良い。
そこそこ高給だったはずだから、簡単に生きる場を変える選択自体もできないだろうと思う。
社員数を少しずつ減らすことで支出を絞ると、生存期間は伸びる。
根本解決ではもちろんなく、ラストチャンスに対する猶予を生む事ための延命措置だ。
一年で六名を退職させる。
二年で十二名。
そして、三年目。
自ら退職していった者も多いこともあり、残る社員は数えるほどだから、もう待てない。
だが、この残りの数名はこの二年間をめげずに取り組み、セントメディテ復活を信じて一皮剥けた者たちだ。
予算の中から各地での情報収集会合を継続して開き、有力な可能性があるものから検証に当たる。
一見地味だが、自らが東奔西走するわけではないやり方は彼らの成長が見て取れたし、もしかしたら成果が結実するかもしれない、と思わせてくれた。
この会合の取組について報告を受けた初期、面白いと思ったので一つの地域については自身で参加者となることにした。
大変なのは参加者探しと勧誘だった。
グリムの器に関わった可能性が高そうな人間の特徴などに特に共通点はなく、急な成功を収めた者だったり、不思議な事件に介入したような人間など、異質な体験をしていそうな人を中心に探す。
我ながら自分が参加する会のメンバは独特の面白い者たちを集めることができたと思う。
そして最近になってようやくグリムの器が話題に上り始めた。
自分から明らかにグリムの器を話題にするのを避ける、というのが方針の一つだったので待っていたのだ。
ついにグリムの器の話が出てきた。
カナメが所持者であったことは意外ではなかったが、過去形だったことで器の入手には直結しない。
セツナがこの会の主旨を言い当てた時は、何も危険はないとはいえ、ちょっと身の毛がよだつ感覚があった。
一瞬、始末しなければならないか、という想像も頭を巡ったがそんなことはない。
主旨が判明したところで何もまずくはない。