10-37. Thirsty vessels
名前に"竜"という漢字が含まれる。
だから昔からリュウとかタツという渾名が付くことが多かった。
さすがにだからといってドラゴンはないだろうと思っていたのだが、人の慣れとはおそろしい。
しばらくすると、それも自分の呼び名として自然に認識できるようになり、呼ばれてもむずかゆい感覚が薄れていき、やがてほぼなくなった。
名前のせいかどうかは判別がつかないが、子どもの頃から空想上の生き物や、夢物語は好きだった。
ドラゴン以外にもユニコーンやグリフォンなどの話は大好きで、未だに本物の存在は信じている。
存在しないことは、証明できないに等しい。
であれば、信じていた方が夢があるというものではないか。
人間ができることには限りがあるが、生物としては稀有な頭脳と、数千年数万年と続く繁栄力を併せ持った結果、個体の能力を大きく超える実績が生まれた。
衣食住の充実、文化的成長、現在に至っては通信網や機器の発達が、一昔前に想像し得なかった革新的な生活の変化まで起きている。
そこに来て、その存在が現実味を帯びて来たグリムの器である。
まるでこれは魔法のようだ。
科学とは正反対の力のように感じる。
人間のここまでの発展とは根本的に異なる力がそこにはあるように思えるのだ。
だからこそ惹かれる。
見てみたい。
触れてみたい。
調べてみたい。
魔法的な神秘の力の源泉は、相反する科学的検証でどこまで明らかにできるものなのだろうか。
まるで灰色だった世界が色を纏うような感覚だ。
それほどにグリムの器というまだ見ぬ偉人たちの遺物には心躍る。
きっとこれだけの切望、いや渇望なのだ、いずれ自分のもとにも何らかの器が訪れると信じて疑わないが、自ら追い求めることも止めるつもりはない。