09-35. The Hole
担当の編集が私宛の手紙類を月に一度ほどまとめて届けてくれる。
読者からの手紙なんて、作家人生の初期にはもらったことがなくて、例の二作のヒット後にちょくちょく届くようになった。
舞乃葉要宛も愛鐘舞帆宛もあるのだが、最近にななって私個人宛のものが出てきた。
もっと言えば、直接自宅兼作業場に届くことすらあるのだ。
つまり個人情報が漏洩している。
私は中身を読まないのでどんな内容かはわからない。
本名で届いた手紙ははじめ何だかわからずに封を切ってしまったのだけれど、ファンレターの類だとわかってそれ以来怪しいものは開けない。
何らかの組織・団体が関係している可能性もあるが、どうも今の危惧であるペンネーム・作家名からの推測で私を見つけてしまったケースも実はあるのではないかと思う。
一旦個人情報が漏洩することによる具体的デメリットはなく、漠然とした不安が生まれたり、遊び半分での嫌がらせなどが起き得る、というだけだと考えている。
安易な名前で活動してしまったことによる自業自得の印象が強いので、誰にクレームを出すでもなく一人対策を考えているだけだ。
…と悲観もしていたのだが、視野を広げたり、自分の活動範囲を見直すことで多くの発見があったり、異なる人脈が生まれることがわかった。
セツナ、ピネ、それから凛もとても興味深く、彼らとのコミュニケーションは大変有意義だ。
人嫌いだと思っていた感覚すら上書きされてしまうかもしれないほどに、彼らの話を聞くのは楽しいしこちらも話すことに抵抗がない。
私は.&の会に何を求めていたのだろう。
グリムの器のより具体的情報?
この安寧を脅かしかねないリスクの対処法?
そんなに難しいことではなかったのかもしれない。
友人と呼んでよいかもわからない数名の若者たちといる時の心地よさは、もしかすると私はただ寂しかっただけなのではないかと感じさせた。
誰だかわからない何者かからの手紙に触れて不安だったのか。
誰かとただ話したかった。
誰かに相談したかった。
それだけのことだったのかもしれない。