Grim Saga Project

08-28. Beat Blues Beat

 
 
 
 「さて、食べながらですまない。もちろんこの絶品の食事たちも目当ての一つだったんだけど、セツナと会話しておきたくてね。ピネにもさっき少し話してきたところなんだ。」
 
 「ああ、実は僕も少し引っかかっていたことがあって。気のせいだったのかもしれないけど、さっきの会の場でピネが何か言おうとしたよね。カナメが議題を日常の中の非日常に戻した時の。あれ、僕にはピネが言おうとしたことをカナメが制したように見えたんだ。何かものすごく大事なことのように思えて。」
 
 「はは、やっぱりセツナには気付かれてしまっていたか。まさにその通りだよ。私はまだドラゴンを信用していない。知られたくなかった。だから割り込んで止めてしまった。不自然かなとは思ったんだけれど。」
 
 「あ、あの、カナメさん、あ、ありがとう。」
 
 「いや、礼を言われることじゃない。まだこの判断が正しいかどうかわからないよ。」
 
 「ドラゴンには言いたくないけど、僕にはいいの?凛も連れて来ちゃったけど。」
 
 「うーん、これはもう直感というか単なる印象だと思うんだけど、セツナは大丈夫なんじゃないかと感じただけなんだ。あ、いや、前置きが長くなった。ピネ、いいかい?」
 
 「うん。」
 
 「それじゃ改めて。ピネはグリムの器の所有者だ。私と違って現在も所持している。」
 
 「ああ、なるほど。だからか。ピネはそれを言おうとしたんだね。僕もカナメがピネの話を止めた判断には賛成だな。ドラゴン、またはあの会の運営組織・上位団体辺りの何者かは、グリムの器の情報を集めている。そんな仮説を話したばかりだしね。もしそうだったとして、過去の所有者だったカナメの身に危険は及ばないかもしれないけれど、及ぶかもしれない。ピネはもっと安全とは限らない。凛、僕たちの話も先にしておこうか。」
 
 「何を話すつもりだったか知らないけど何となくわかったよ。ちょっと私の手を見ててね、二人とも。……………………ふっ!」
 
 「炎!凛、これは…。」
 
 「うん。扱い方を間違えなければ大丈夫、熱くない。お店を騒がせちゃいけないから消しとくね。器の多くは記憶に関わる特殊な能力を引き出すとされているけど、私はちょっと変わっていて炎を操れるんだ。ある程度ね。」
 
 「凛と同じく、僕もマスタと呼ばれる器の保有者なんだ。このグリムの器のおかげというかなんというか、非日常なんて飽きるほど味わって来ているよ。」
 
 「なんと。二人とも器の所有者、君たちの言葉を借りればマスタだったんだね。だとすると恐ろしいのは、あの会がグリムの器の情報を求める目的で行われているなら、事実マスタの招集に成功しているという点か。私は今は違うけれど。」
 
 「そうだね。直接の接点もなく、外部からの情報だけでマスタなんてそうそう見破れるようなものじゃないと思う。だから、そう、カナメの言う通りなんだか恐ろしいな。」
 
 「グリムの器やマスタを探して、そのドラゴンさんたちは何をしたいんだろう?」
 
 「ここまでに見てきたグリムの器を欲する人々の通常の感覚は、やっぱりその特別な能力を利用したい、とか、富を得たい、とかそういうケースが多いような気はする。」
 
 「ドラゴンが僕ら側なのか、あちら側なのかも見極めたいよね。それと会の目的も明確にしたい。偶然マスタが集まったとは考えづらいけど、目的が器に関わることかどうかはまだ確証がない。いつものことだけどわからないことだらけだなあ。」
 
 「うん。でもカナメさんとピネさんと先に食事ができるような関係が作れて良かったね。ところでカナメさん、ピネさん、まだお話しようとしてくれていたことがあるんじゃない?」