Grim Saga Project

07-24. 2XXX.07H04

 
 
 
 「う、うわあ、ビックリした…。カナメさん、そんなにいっぱい話せるんだね…。」
 
 「ああ、うん。むしろ私は結構おしゃべりだと思うよ。止まらなくなる自覚があるから、普段は気をつけているんだ。」
 
 「いや、しかしそれだけ聞くと、こちらもたくさん聞きたいことが出てきてしまうね。カナメ、君の持っていた器はどうしていなくなってしまったんだろう。」
 
 「もちろんそれは私もわからないよ。だけど、あまりにも短期であり、器との対話があの作品たちを生んだようなものだから、私はアレを書かなければいけなかったのかなと解釈している。」
 
 「その理由は不明というわけか。」
 
 「うん。」
 
 「その器はどんな形状のものだったの?なにかの武具?」
 
 「いや、私の元に現れたのはペンだよ。万年筆だったのかな。一度もそのもので何かを書いてはいないのでわからないけどおそらく。」
 
 「ペン…。ペンがある時代となるとだいぶ近年のイメージだよね。なんとなく、もっと太古のつもりで聞いてた。」
 
 「ああ、それは私も思ったんだ。だから調べたんだけど、もちろんこの100年200年で現在の機構の多くが生み出されてはいるんだけど、歴史を辿るとペン自体は今から1000年以上前から存在していたそうだよ。だから、あまり細かい時代の特定には繋がらないないかもしれない。」
 
 「武具のほかにどんな形のものがあるんだろう。いや、武具としてもどんなものがあるのか、興味あるなあ。」
 
 「その、…ペンは、なんで作品、を、書かせたかったんでしょう…。」
 
 「僕は話を聞いて二つとも読んでみたけど、アレが世に出なければいけない理由はパッとは思い当たらないなあ。」
 
 「ああ、読んでくれたんだね。ありがとう。」
 
 「先ほどの話の中で特殊な能力とか記憶を司るという話があったが、例の二作で書かれた未来を予知するような内容はそれと何か関連があると見ていいのかな。」
 
 「うん。ドラゴンの言う通り。私が器と話していく内に、その内容が面白くてメモ書きしていたものが元なんだ、あれは。」
 
 「どちらも?」
 
 「いや、次代の先駆だけだね。それまでに書いた作品があまり売れなくてね。泣かず飛ばずだからと打開策を考えていたところだったから活用させてもらったんだ。センチメンタルフューチャーは完全に便乗的な後付けというか、次代の先駆を書きながら、その背景で起きたヒューマンストーリーを思いついて面白そうだったから書いただけ。わかってて読むと大して意味がない、というか面白くないから、別の出版社・別の作家として出すことにしたんだ。」
 
 「例えばこういうのはどうだろう。内容そのものに意味があるわけではなくて、未来を予知するような内容のコンテンツを世に出すことで、カナメのところを訪れた器は自分の居場所を伝えようとした。あるいは、自分がまだ存在していることを知らしめた。」
 
 「面白い。けどドラゴン、前者だとしたらもう器はカナメさんのそばにはいないようだからあまり意味がないよね。後者はさ、グリムの器のことを僕たちがもっと知らないと前提条件が足りない気がする。そんな何百年とか存在し続けているような印象のものに対して、存在のアピールが必要なのか、そうだとしたらそこにはなんらかの経緯があるはずだし、そもそも消滅するのかどうか、なんというのかグリムの器にとっての死の定義みたいなものが知りたいよね。」
 
 「まあ、今のはそういう熟考なしの思い付きだよ。そんなに真剣に捉えなくても良い。考え方のサンプルを提示した程度の意味合いしかない。」
 
 「たしかに、観点は面白かった。私の印象だけど、あの器は私が会話を作品にするとわかっていた、というかそうするように仕向けたんだと思うんだ。というか、実際にそういう会話をしていた。面白そうなネタを提供してやるから、それを作品にしたらいい、みたいなことを言われていたからね。」
 
 「やっぱり、器は、…作品に登場した、未来予知の話をしていたの?」
 
 「ああ、そうだね。一番具体的なのは年号かな。先日変わったばかりの年号を器は事前に言い当てていた。あとはIT機器についても書いたけど、いきなりポッと出てくるようなものでもないから、先端技術にアンテナを張っていれば予測不可能なものでもないだろう。それらを無名の作家が事前に作品に盛り込んでいたら面白いと思わない?って感じだったんだ。」