05-17. For a moment
ティラミスは本当に絶品だった。
夢中になってしまいそうだったし、再びがっついてしまいそうだったが、あまりにもはしたないと思い、かなり強い意思をもって思い留まりながら私は自分が話した非日常と、ほかの三人の話の中で印象に残っていたものをかいつまんで話した。
セツナは控えめな相槌を打ちながら、真剣に聞いていた。
私は二本の作品が一定の売れ行きを見せたことによって、男性作家・女性作家の両方として扱われたり、個人が特定されそうになったりと、今尚続く身の回りの騒動について伝えた。
ピネはスーパーの店員のバイトをしている中で常連と思われる客からのストーカー被害を受けそうになった話、ジルドは便利屋稼業の依頼で浮気調査をしていて依頼主と調査対象の夫婦が行方不明になった話をしたこと。
ドラゴンは実業家というか、そもそも色々と不思議な存在で、どのような仕事をしているか想像もつかないのだが、割と毎回多くの変わった小話をしてくれる。
印象に残っていたのは、仕事の付き合いの中で面識のあった女性が、ある日突然まったく別の人物になってしまった話だった。
同姓同名なのだが、おとなしく控えめだった女性が、明朗活発な男性として現れた。
しかも周囲の誰もがそれを当たり前のように認識していた、という今もなぜなのかわからないという話。
「ピネの、ストーカーはなんで被害を受けないまま終わったんですか?」
そういえば、ピネはその話をした時に、なぜかある日突然ピタリと現れなくなった、というような話をしていた。
今考えると、例の神が手を回したのだろうと気付いた。
神という表現は一般的過ぎて、ピネの表裏に存在する彼女を表すのに不適切だと思っていたので、便宜的ではあるが、裏ピネとでもしておく。
ストーカーが突然現れなくなったそうで、その理由についてはピネは話さなかった、と伝える。
セツナに裏ピネの話をしたらどうなるだろう。
さすがに表裏のピネに何も言わないままセツナに話すのは違うかなと思ったから、今はやめておこう。
しかし、セツナは面白い。
食事の意義を考え直す機会も与えてくれたし、例の会に関する見解も私には思い至らなかった感覚である。
色々と学ぶことが多い。
聞けばまだ学生なのだと言うが、そうは感じさせないほど、大人びている。
ルックスは端正だし、どちらかというと幼い方だと思うのだが、雰囲気や話し方・考え方がそう感じさせるのだろう。
どんな経験をしてきたらこうなるのだろうか。
「あ、そうだ、カナメさん。もう一つ、もし何か思うところがあったら聞きたいんですけど。」
「うん。なんでも。」
「先日例の会の報酬が振り込まれたのですが、その差出人が気になったんだよなあ。見てます?」
「いや、私はお金にも割と無頓着なもので、恥ずかしながら気にしていなかった。どんな名義なんだい?」
「ええ、たった二文字なんです。ピリオドとアンド、です。記号の。なんて読むかもわかりませんし、誤りなのかもしれません。」
「ピリオドとアンド。それっぽく読むなら、ドット、…アンパサンド、とかかな。たしかにそれは気になるね。これまでの会の中でも似たようなワードを聞いたこともない。それがドラゴンとメッセージのやり取りをしている人物、または団体を指しているってことだね。」
「はい。僕はそう捉えています。雰囲気的にひとりの人というより、何らかの団体なのではないか、と感じています。」