Grim Saga Project

05-14. Crystal astrology

 
 
 
 「そうだ。そしたら、私が次に手を取るべき対象がどれなのかを占ってもらおうかな。そうだなぁ、権力、腕力、知力。どの力が良いだろう?」
 
 「暗喩か。ほう。面白い。答えは唯一無二、知力だ。それ以外はない。多少五感が働いてしまいそうな問いではあるな。」
 
 「うん。それはまあいいんだ。ありがとう。」
 
 
 
 という、思い付きのやり取りは我ながらなかなか良い閃きだったと感じる。
 だから、ピネ以外にも会話をしておくべき相手がいるとしたら、それは彼である。
 セツナ。
 
 次回連絡先を交換しようと思っていたのだが、それよりも前に偶然か必然か、彼と出会う機会を得た。
 私は普段あまり表に出ない。
 特段の理由はないが、執筆活動という名の仕事もある程度忙しいし、元よりあまり社交性が高くはなく、社会を好ましいと感じておらず、人と話すとひどく疲れる。
 例の会への参加を決めたのは、それでも編集者以外の誰かとのコミニュケーションが定期的に刺激として必要だと感じていたために、有意義な会話をできる相手を求めていたからだ。
 低俗な会話になるぐらいならごめん被りたいと思っていたのだが、たまたま顔を出してみたあの会は、メンバーも内容もなかなか異質で刺激的である。
 
 そんな外部との接触が極めて少ない私だが、食事のための外出はやむを得ずする。
 コンビニで適当な食べ物を買い込み、数日閉じこもるようなことも珍しくはないし、宅配も便利にはなったが、気分転換としての食料調達はそこそこ行う。
 この時ももちろん、ただコンビニに向かってぼんやりと考えごとをしながら歩いていただけだった。
 
 カナメさん、と声を掛けられた時はここ数年で最大かと思うぐらいに驚いた。
 そこにはにこにこした若い男性がいた。
 ちょうど彼のことを考えていたから余計に異常な驚き方をしてしまったかもしれない。
 身体がビクッと動いた自覚が自分でもあった。
 めちゃくちゃ恥ずかしい。
 
 
 
 「あ、ごめんなさい、そんな驚かせるつもりは…。」
 
 「いいいい、いや、ホントにビックリしてしまって恥ずかしい…。」
 
 「すみません。特に用事はなかったんですが、見かけてしまってつい声を…。」
 
 「まあ、でもそうだよな。集まれるような距離にいるってことは、ある程度は近所に住んでいておかしくない。考えてもいなかった。これからは警戒しよう。」
 
 「ところでカナメさん、何かの用事でした?」
 
 「あー、いや、恥ずかしながらただコンビニで食べられるものを買おうと思ってきただけの日常だよ。」
 
 「おー、なるほど。そうしたら、夕飯一緒に取りませんか?近くに美味しいお店知ってますよ。」
 
 「なんだと。セツナはそんなことができるのか。私はそんなこと、したことがないよ。」
 
 「え、意外ですね…。じゃあ余計にぜひどうですか?たまには外食も良いんじゃないかと思うんですけど。」
 
 「うーん、そうか。緊張するが、こんな機会でもないと外食なんて永遠にしそうもないからね。お誘いに乗るとしようか。」