03-11. Incident Recollection
「ああ、そうだな。そしたら土門と呼んでくれ。俺はアンタを緑川と呼べばいいかい?」
「うん。それで行こう。…で、何を聞きたくてわざわざ外で会うようなことになったのか教えてもらっていい?」
「ああ、例のアンタが巻き込まれた、って言えばいいのかな、あの事件のことを知りたがってる人間がいる。つまりそいつが依頼主ってことだ。」
「それが誰かは当然秘密ってことですね。」
「そういうこった。話したくないことはあるかい?まあ、先に言っとくと、一番手っ取り早いからこうして直接聞きに来てるが、誰だかわかんねぇやつが昔の事件について知りたがってるから教えてくれっつったって教える義理もなきゃ得もねぇよな。だから無理に聞き出すつもりはない。アンタから聞ける話以外はまた別の方法を考えて調べなきゃな。それが便利屋稼業の性ってやつだ。」
「ふうん。今のところ特別隠さなきゃいけないことは思いつかないけど、何が聞きたいんだろう。学内では割と噂にはなってたけど、世間一般にまでそれほど浸透した事件、ってこともないと思うんだよなあ。なんで知りたいかは別にどうでもいいけど何を知りたいかよくわかんない、ってのはあります。」
「世間一般でもだいぶ知られてんだろ。亡くなった学生もいたよな?たしかアンタの、緑川の一つ上の先輩が二人。そんで後輩が二人お縄だ。」
「そうですね。さすがに土門さん、公に報じられたことは調べて来てますよね。それ以外で知りたいことってなんですか?」
「うん。こちらも今何をどこまで知ってるか隠すつもりもない。一人は自殺、もう一人が薬殺、そして二人逮捕ってことだったが、報道はすぐに収まった。噂的に、それらの学生がすべて同じサークルに所属していたってのは割と確度が高いってのと、アンタがそこに所属していた一人だったってこと、そしてこれは独自に聞き込みで知った噂だが、一連の事件にはクスリが絡んでたって話だ。もう一つ、真偽のほどは知らないが、事件の解決に同じサークルの学生が一枚噛んだって話まである。俺はそれが緑川、アンタだと踏んでる。どうだ?」
「うん。なるほど。今の話がすべて本当だとしたら、僕は事件の全容を知っていることになるし、詳しい話がたくさんありますね。だけど、残念ながら僕は事件解決の立役者ではないし、僕の知る限り、解決したのは単純に警察の方々でした。」
「ふむ。クスリ絡みだったってのは?」
「それはどうやら本当らしいです。僕はまったく麻薬には関わっていなかったので、警察の話を聞いたり、僕らも疑われたわけなので、そういう流れになるまで一切知りませんでした。今も本当にそうだったのか、あまり現実味がないほど。」
「後輩二人が捕まるタイミングで、アンタはその現場にいたって話がある。そこは?」
「ええ、それも事実ですね。二人も亡くなったことで、あの時は何が起きてるかもわからず、これ以上犠牲者が出ないように奔走しました。サークルの主催は三人の先輩で、その内の二人が亡くなったものだから、残りの一人の家に行ったんです、心配で。そしたら、そこに警察が先に来ていて、その先輩は後輩たちに殺され掛けていた。なので、結局僕らはその場に駆けつけてしまいましたが、警察の邪魔をしてしまった。あとでこっぴどく担当の刑事さんに怒られましたよ。」
「なるほど。噂はどれもほとんど本当だが、実際にはアンタは事件解決に一枚噛んではいない、ってことか。」
「少なくとも、僕自身は事件解決のお役に立ったとは思っていないなぁ。」