Grim Saga Project

03-10. Nostalgic Dawn

 
 
 
 土門知之はとてもゆったりとした足取りで歩いていた。
 郷愁。
 比較的緑の多い作りは、近年の傾向である近代的、または近未来的な思想とは相反していて、むしろ好感である。
 自分が学生だった頃を思い起こしてしまったりもしたが、あまりにも遠い過去のようにも思えて、思考はそこまで没入せず、多少甘酸っぱい程度。
 
 大学のキャンパスである。
 もちろん用もなくこのような場違いな組み合わせが生じるわけもなく、仕事だ。
 いつも何らか異質な依頼を受けているため、少しぐらいの非常識や非日常、そして何らか人間の闇を垣間見るような経験には慣れている方だと自覚している。
 
 だが今回の依頼について、土門はあまり腑に落ちていなかった。
 なんせ周りくどい。
 不要なステップを何手か経ているように思う。
 しかし、今回の依頼主はそういう無駄を好むような人間ではない印象だ。
 つまり、要らなかったように感じる段階にも何らか意味があったということなのだろう。
 
 ノスタルジックな気分は一旦脇に置いて、待ち合わせ場所である棟に入る。
 大学には様々な学生や教授がいるので、ちょっとやそっとじゃ怪しまれたりはしないものだが、土門のようなイカツイ親父はさすがに珍しいのかさすがに訝しい視線を何度か浴びた。
 いちいち気に留めていても仕方がないので、指定の教室に向かう。
 案内板を見つけたのであまり迷わずにその部屋に辿り着くことができた。
 
 ためらわずに中に入ると、そこには一人の少年と見紛うような若者がいた。
 
 
 
 「やあ、こんにちは、便利屋さん。ここではなんて呼べばいいかな。」